『 螺旋階段 』
* E
その長い螺旋階段の一番上に、アルフォンスが・・・・・・弟が、立っていた。
長く伸ばした金の髪、真っ赤なコート。あの頃の俺のような格好。
ゆったりとしたパンツのポケットに両手を突っ込んで、階段の上から、俺を見下ろしていた。
「アル・・・・・・!」
会いたかった。ずっとずっと会いたかった。
抱きしめたかった。抱きしめて欲しかった。愛してるといって抱きしめて欲しかった。
金色の瞳が俺を見下ろす。
「アル・・・アルっ・・・・・・・!」
階段を駆け上ろうとする。
なのに。
どういうわけだか同じ場所でバカみたいに足踏みをするだけで、ただの一段も登ることができない。アルのいるところへ近づけない。
抱きしめたいのに抱きしめて欲しいのに。
・・・・・・・・・どうして・・・・・・っ!
「アル!アルフォンスっ!!」
俺は必死で手を伸ばす。
この手をとって欲しくて。受け止めて欲しくて抱きしめて欲しくて。
なのにアルはその両手をポケットから出すこともせずに。
「アルっ!アルっ!アルっっ!!」
その瞳はちゃんと俺を見ているのに、その瞳に俺はちゃんと映っているのに。
この手をとってくれ。受け止めてくれ。抱きしめてくれ強く・・・・・・・・・お願いだから。
俺を呼んでこの手をとって。
泣きそうな気持ちでがむしゃらに伸ばしたその手首を・・・・・・俺の背後から伸びた手が掴む背中から抱きしめられて俺はその場に縫いとめられる。
振り返り仰ぎ見た、青い、瞳。
たしなめるような静かな深い海のような瞳。
「離してくれ、離してくれハイデリヒ!アルが・・・・・・アルがいるんだ!」
俺を迎えに来たんだ。
帰るんだ。アルの元へ、俺は。
もがいても、戒めは緩まず抱きしめる腕の中から抜け出すことが出来ずに。
「アル・・・っ!」
助けを求める気持ちで、アルフォンスに弟に手を伸ばす。
「その人と幸せになるといいよ、兄さん」
ずっと聞きたかった懐かしい声が紡ぐその言葉に、俺の心が、しん、と冷えた。
いつの間にか着衣が落とされ、背後から熱く突き上げられる。
アルフォンスが弟が感情の篭らない瞳で俺を見下ろしている。
「違うんだ・・・・・・違うんだ、アル!!」
これは間違いなんだ。
「なにが、違うの?」
「なにが、違うの?」
アルと、ハイデリヒの声が重複する。金と青の4つの瞳が俺を見据える。
「僕を受け入れてくれたじゃないか・・・・・・エドワード」
「彼を受け入れたじゃないか。兄さん、あなたは」
違うんだ。間違いなんだ。
帰れなくて帰るすべが見つからなくて疲れ果てて途方に暮れて。
疲れ果てて精も根も尽きて果てて望みをなくして・・・・・・俺は、傍らで支えてくれたその温もりに身を委ねた・・・・・・・・・。
寂しさを紛らす為に無力感をごまかす為に、そのやさしい人を利用した。心はいつだってアルフォンスに血のつながったお前に向いているのに、寂しいからと辛いからとただ自分が楽になろうとして。
心をあげられるわけでもないのに自分が楽になる為だけに・・・・・・その優しさにつけ込んで利用して。
「その世界で、そのひとと幸せになるといいよ。兄さん」
ごめん・・・・・・もう、こんな馬鹿なことしないから。お前を裏切るような真似、もう絶対しないから。
「裏切るとか、そんなことは思ってないよ」
許して。お願いだから許して俺の手をとって。
「ただ、僕以外の人の手を取れるのなら、そのほうがいいから。そのほうが正しいから。僕たちの関係の方が間違いだったんだから」
嫌だ・・・・・・いやだよ・・・・・・許してくれ俺の手をとってくれ。アル・・・・・・。
「だから、その世界で幸せになりなよ」
アルフォンスが俺に背を向ける歩き出そうとする。
帰りたいんだ。戻りたいんだ。許して・・・・・・俺を許して。愛してるんだお前だけを愛してるんだ。
愛してるんだ・・・・・・叫ぼうとするのに声が出ない。
その単語だけが声にならないまるで封じ込められてしまったように。
「アルっ!アルフォンス!!」
許して・・・許して・・・・・・俺をおいていかないでくれ俺をお前の元に帰らせてくれお願いだから傍に居させて。
「アルフォンス!!アルフォンスっっ!!」
「・・・・・・そう、もっと、名前を呼んで・・・・・・エドワード」
這い回る掌、肌を滑る唇。
違うんだ違うんだこんなはずじゃなかったんだ俺が馬鹿だったんだ・・・・・・許して。俺を許して。
傍に居させてお前の元に帰らせて。触れてくれなくてもいいから俺をお前の傍に置いて。
なのに、遠ざかって行く。アルフォンスが。振り返りもしないで。
俺を置いて行ってしまう。アルが。俺をここに残したままで。
アルが行ってしまう。俺を・・・・・・ここに捨てて・・・・・・・・・・。
アルが、俺を捨てて・・・・・・・・・。
あの時、死ぬつもりで最後のつもりでアルを練成した。
アルが生きてくれるのならと、俺の命を捧げるつもりで。
あのまま、終わってしまえばよかった。この世界で生き残らずに。
あのまま終わってしまえばよかったそうしたら俺はお前の命になれた。
お前の命になってずっと、お前の中に居られた。
あのまま終わってしまえればよかったのに・・・・・・。
なぁ、このまま俺の存在を消してくれ。
おれが此の世にいなかったことにしてくれ。
アルが俺を捨てて行くなら俺の命に意味はないから。
ああ、それともいっそ・・・・・・アルフォンス・・・・・・・・・お前の手で、俺を・・・・・・消して。
けれどアルは・・・・・・俺を殺してもくれずに・・・・・・・・・。
「・・・・・・ドワード・・・エドワード!!」
身体を強く揺すられて、俺は自分が覚醒したのだと知る。あれが夢だったのだと知る。
酷い・・・・・・夢。
悪夢から解放されて俺は深く息を吐く。
「だいぶうなされていたよ。咽喉、渇いたでしょう?待ってて、今、水を持ってくるから」
ベッドのスプリングが軋む。傍らから離れてゆく体温。
背の高い後姿。金の髪。均整の取れた・・・・・・・・・裸体・・・・・・。
恐る恐る・・・・・・俺は自分の身体に視線を向ける。
夜衣もまとわず晒した胸に・・・・・・無数に散ったくちづけの痕・・・・・・・・・。
「あ・・・ぁ・・・・・・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
覚めない悪夢拭えない過ち。
俺は、絶望の悲鳴を上げた。
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