『 螺旋階段 』
** H
まるで力尽きるように崩れ落ちるようにあなたが眠りについた夜更けに僕は、己の浅はかさを嘲け嗤おう。
心を貰えないのであればとせめて肉体だけでもと、たった一部でもいいからあなたのカケラを欲っした僕の、呪わしい甘さを嘲けて嗤おう。
心の介在しない肉体だけの繋がりの、その虚しさがどれ程の地獄かも知らず。
いつかは心も繋がるなどと甘い夢を見ていた僕の愚かさに、呪詛の言葉をいくつも並べて。
ねえお願いだ。どうか時間を巻き戻して。
もう触れたいなどと望まないからどうか僕らの時間を戻して。
あのときのあなたの叫びが耳から離れないんだ。
心引き裂くあの叫び声がずっと耳から離れないんだ。
こんな筈じゃ、なかったんだ。
こんなことになるなんて思ってもみなかったんだ。
何も知らなかったんだ。何も知らずに甘い夢を見ていたんだ。
身体を繋げてあなたに愛を囁いて。そんな毎日を繰り返せばいつか、僕を受け入れてくれるだろうなんて甘い夢。
いつかは弟の影越しでなく、僕だけをみてくれるだろうなんて甘い夢。
だって知らなかったんだ。
何故かたくなに僕を拒んでいたのか幾ら弟と似ているとはいっても。
我に返ったあなたがどうしてそんなに絶望するのか何故あんなにも悲痛な声で叫びをあげるのか。
知らなかったんだ。
あなたが誰に永遠を誓っていたのかを。
知らなかったんだ僕は。
あなたの弟とよく似た僕と情を交わすことがあなたにとってどれほどの重さで‘恋人’を裏切ることになるのかなんて。
思っても、みなかったんだ・・・・・・・・・。
ねえどうか時間を巻き戻してすべてなかったことにして。
だってあなたはもう僕に笑いかけてはくれない。
僕が触れることであなたが罪の意識に苛まれるならもう望んだりはしないから。
僕を見て欲しかったんだ僕だけを見て欲しかったんだ僕を見て僕を呼んで笑いかけて欲しかったんだ。優しく明るく笑いかけて欲しかったんだ。
けれどもう、あなたは僕に笑いかけてはくれない。もう、決して。
僕の姿に‘彼’を見て自分の裏切りに怯えて・・・・・・・・・。
笑っては、くれない。
ねぇ、どうか時間を巻き戻して何もなかったことにして。
どうか時間を巻き戻して友人でいられたあの時に戻して。
「もう、止そうよ、エドワード。もうこんなことは止めようよ・・・・・・傷つくだけだから、もう」
けれどあなたはヒステリックに叫び声をあげて僕を無理やり扱きあげて。
「抱けよ!壊せよ俺を!!何も考えられないように壊してくれよっ!!」
自虐のように自害のようにあなたは僕の上で荒れ狂って。
「壊してくれよ・・・・・・俺をっ!」
もう・・・・・・止めようよ・・・・・・・・・こんなことは・・・・・・・・・・・・・。
どうか時間を巻き戻してただの友人でいられたあの時に戻して。
僕が一人であなたに恋をしていただけのあの頃に戻して。
塞ぎこみがちだったあなたがそれでも友人として僕を必要としてくれていたあの頃に戻して。
何も知らずに甘い夢を見ていればよかった。触れてしまわなければ友人に見せる笑顔くらいは向けてくれていたのに。
どうか時間を巻き戻して。
僕らが壊れてしまう前のあの時に戻して。
昇ることのできない螺旋階段。
絶望という同じ景色をただ僕たちはぐるぐると回りながら、落ちてゆくだけ・・・・・・。
『螺旋階段』‘A'へ