『 宵待 』










 まぶたの向こうを淡く照らしていた月明かりに、影が差すのを感じる。
 町外れの安宿の、古いベッドが軋むかすかな音。



 ああ・・・・・・・・・今夜も。



 眠ったふりをして、オレは、こうしていつも、夜を待つ。







 少しざらついた革の指先が、いつものように丁寧にやさしく頬を唇を撫でてゆく。
 オレは薄く唇を開く。
 上唇、したくちびる。繰り返しなぞられて、あまくしびれる。


 アルは、オレが寝てると思ってる。


 指先がてのひらが、ゆっくりと首すじを伝う。肩を腕を包むように、確かめるように。
 胸の上をわき腹を撫でて過ぎる。わざと出しておいたシャツの裾から大きな手が忍び込む。指先が当たって乳首が凝る。それを見つけたのか、シャツの上から、内側から、両手でゆるく転がされて気持ちよくて声を呑んで。

 吐息だけを誘うように、あまく漏らして。

 だって、声を出したら止めてしまうから。
 この部屋を出て、いなくなってしまうから。
 そして朝には何事もなかったみたいに「おはよう」って言うんだ。
 あたりまえの弟の素振りで。



 いいのに。
 触れていいのに。
 もっと触れてもいいのに。




 触れて、ほしいのに。



 寝返りのように身じろぎのように、腿をこすり合わせて膝を浮かせる。
 片方の手が下りてきて、内腿を撫でる。
 うっとりと愛でるような手つきで、甘く、じれったく。
 なんども、何往復も優しすぎる手のひらが撫で回すからもどかしくて、いっそつらくて。

 もっと、触れて。もっとちゃんと。


 触れて欲しがってゆるゆると立ち上がるそこを同じ優しい指が丁寧になぞり上げる。


 もっと触れて。ちゃんと触れて。

 ねだるように角度を上げるそれを大きな手で包み込んで可愛がって熱を散らしなだめて。
 名前を呼ばせて抱きしめさせてこの間違った欲望ごとさらけ出して愛を乞わせて。
 じらさないでもっと触れて壊れてもかまわないから強く強く俺を求めて。




 叫びだしたいくらいに、焦がれてる。
 触れて欲しくて。いや、それよりもいっそ・・・・・・・・・・・・・。







 なのに優しすぎるその手のひらはオレを絶頂に押し上げてはくれずに・・・・・・・・・。




 床板が硬く軋む。扉が開かれ、閉じる音。
 長い廊下を足音が遠ざかってゆく。

 いつもと、同じように。







「・・・・・・・・・アル」
 中途半端に熱を熾され放置されたそれに指を絡める。
 呼びたくて呼べなかった愛しい名を音に変えて。
「・・・・・アル・・・・・・・ぅ」

 何を思い、アルは俺に触れるのだろう。
 いつまでオレは、こんなことを続けるのだろう。
 いつまで・・・・・・いつまでも、か。




 虚しい熱を吐き出して自分のおろかさを嘲り笑って。





 それでもまた性懲りも無く、宵を待つのだ・・・・・・・オレは。












END