『 Shalla, Shalla 』






 シャラ・・・・・・ン


「あら?今、どこかで鈴の音が・・・・・・?」
「どこかその辺の家で子猫が遊んでいるんだろう?ほら、急がないと。お茶の時間に遅れるとまたお祖母さんの小言がはじまってしまう」
「ふふふ、そうね。急ぎましょう」


 白いカーテンの揺れる窓の外で人の話し声がする昨日から泊まっているホテルの1階。
「や・・・・・・アル、見えちゃう・・・・・・そと・・・人が通・・・・・・・・・っぅん」

 シャラン・・・・・・シャラ・・・・・・・・・ン

 明るい午後の陽の射す室内に涼やかな鈴の音が、シャラシャラと。
 兄さんの可愛らしい乳首からそれぞれ垂れ下がった2本の糸。その先に結んだ銀の鈴。
 それが、その音の出所。
「大丈夫、みんな猫の鈴だと思って通り過ぎるよ。兄さんが声を出さなきゃ・・・・・・ね」
「ぅう・・・・・ん」
 その兄さんは今、銀の鈴といつもの白い手袋だけを身につけた四つんばいで僕にお尻を向けている。恥ずかしいのと感じているのとで赤く染まった頬を窓のほうへ向けて。
「ああ、でも、猫好きの人は窓から覗くかもしれないね?きっとびっくりするよ、こんな可愛い子猫が鈴をつけて鳴いているんだもの。‘可愛いね’って言ってくれるかも」
「や・・・・・・・っあ」
 イヤイヤと兄さんが首を振るシャラシャラと銀の鈴が音を立てる。

 シャラシャラ・・・・・・・シャラ・・・ン

「どうして?こんなに可愛いのに?」
「きゃぅ・・・・・・・・っ、やぁ・・・ん」
 兄さんの中に含ませた指を深く抜き差しする。兄さんがいつも一番感じてしまうところを抉るように、深く。
 細く高い声を短く上げて崩れ落ちようとする兄さんの胸を脚の間からくぐらせた掌で支える。
「ほら、腕、ちゃんと立てて。顔をシーツにつけちゃだめだよ、鈴が鳴らない」
 がくがくと震える腕をそれでも健気に立てて堪えて。



 そんな兄さんが可愛くて、たまらなく愛しくて・・・・・・だから、意地悪をしたくなる。



 堪らなく愛しくて堪らなくキスしたくて出来なくて、その汗ばんだ肌の感触を知りたいのにこの何の感覚ももたらさない指の埋まる兄さんの内側をその熱を味わいたいのに、この鉄の身体は何も僕に教えてはくれなくて。
 今はまだ仕方の無いことだと解ってはいても、必ず取戻すのだと心に強く決めてはいても。
 堪らなく悔しくて堪らなく泣きたくて叫びだす代わりに僕はあなたに我侭を言って。
 ねえ、兄さん・・・・・・感じたいんだ。あなたの熱をあなたの唇を。その肌を濡らす汗も絶頂を迎える瞬間に目尻を濡らす綺麗な涙も僕自身の唇で舌で指先で身体すべてで。


 ごめん・・・・・・ごめんなさい、兄さん・・・・・・・・・我侭であなたを量るような真似をして。


 そんな僕を解っていてあなたは僕の我侭に応えてくれている・・・・・・きっと。
 羞恥にぎゅっと目を瞑りながら僕を許すあなたを見て安心したいのに本当はそんなことでは満たされるはずも無くて。



 だってそれが本当に、同情ではなく愛なのだと、手放しで信じることも出来ずに迷って。
 だって見えやしないから。本当の気持ちなんか本人にしか解らない。






 シャラ・・・・・・ン。



「アル・・・・・・・・も・・・イキそ・・・・・・・・・顔、見たい・・・・・・よ」
 この体勢じゃ顔が見えないと、泣きそうな声で言ってちょっと暴れる。
「・・・・・・え・・・兄さん・・・・・・・・・?」
 いつもとちがう兄さんにうろたえる僕の脚を兄さんの機械鎧の足が蹴って、そのまま無理やりみたいに仰向けに転がって。
「アル・・・・・・」
 僕に手を伸ばして招くように手を伸ばして。引き寄せられるように、僕は兄さんに覆いかぶさってゆく。
「アル・・・・・・・・・・・アル・・・・・・っぅ」
 その両腕が僕の首に巻きついて。
「兄さん・・・・・・つぶれちゃうって」
 重いでしょう?と、身体を離そうとする僕に顔が見えないほうが嫌だと言って兄さんはぎゅっと抱きついて。


 愛しくて・・・・・・・・堪らなく、愛しくて。


 中に入れた指を動かす絶頂を促す。
 汗の浮く額を僕に擦り付けて甘い声を上げる金の髪が波打ってシーツの上に文様を作る。
「ね、兄さん・・・・・・イケそう?」

 頷いた兄さんの濡れたつややかな唇が、あいしてると、音もなく囁いて・・・・・・。




 シャラン・・・・・・シャラ・・・・・・・・・ン








 何をしているのだろうと見ていると、二つの鈴を皮の紐に通して兄さんは自分の首に巻きつけている。
「だって俺、お前の猫だろ?」
 僕が見ているのを知っていて、悪戯っぽいような挑戦的なような顔で見上げて笑う。
「お前が不安なのはわかるけど、気持ちなんて見えねぇし決まった形があるわけじゃねぇし。信じろとしか言えねぇし」
「うん・・・・・・・ごめん、兄さん」

 僕にすべてを委ねてくれるってことや他の人には決して見せることの無い顔を僕にだけ見せてくれるってこと、あなたがくれる言葉のすべて。
 僕が信じなければそれらすべては曖昧なまま何の意味も持たずに虚しく消えてゆくだけのものだと知っているけど・・・・・・・・・。

「それでもまだ不安だって言うなら・・・・・・・・ほら、ちょっと手えどけろ、アルフォンス」
 ごそごそと寄って来て僕の鎧の胸甲を開けて帷子の中に兄さんが顔を突っ込んで。
 何をする気なんだと呆ける僕の胸の中に、兄さんが『愛してる』と呟いた。
「ぷっ・・・・・・な、何してるのさ、兄さん?」
 甘酸っぱく締め付けられるような気持ちが膨れ上がって、たまらなくて。
「毎日毎日こうやって愛をささやいたる。お前が恥ずかしがってもやめてやんねー」
 にしし、と、悪い顔で笑って僕の口元にキスをして。


「好きだよ、アル。俺、お前のこと好きで好きでたまんねー。お前が俺を信じてくれねぇと、俺が困っから。だから信じろ、アル」


 敵わないなぁと、思う。何時もいつも。
 僕の兄さんは可愛くてきれいでしなやかで強かで。時々、酷く儚いけれども。
 その強さにも儚さにも僕はいつも堪らなく惹かれて愛さずにはいられなくて。
「うん・・・・・・兄さん」
 腕の中に、愛しい人を閉じ込めて。






 心地よい風が窓から入って兄さんの髪がふわりと揺れる。
 大きくまくれ上がったカーテンの向こう、外の通りを歩く人がいまだ丸出しの兄さんの尻に目を瞠って通り過ぎていったことは・・・・・・・・・兄さんには内緒にしておこう。








END