『 せつなくて、せつなくて 』







 せつなくて、せつなくて。


 指の間をさらさらと零れ落ちてゆく、伸ばした金の髪の手触りを僕は知らない。
 この金属の肌は、僕に何の感触も教えてはくれない。


 せつなくて、せつなくて。


 あなたが僕にくれるキスのその唇の柔らかさも、僕に縋り乱れるその上気した肉体が発する熱さも、僕のこの身体は感じ取ることが出来ない。


 ただ、無防備にすべてをさらけ出して見せてくれるその蕩けた表情が、うわごとのように繰り返し僕を呼ぶ甘い声が。
 僕の手から快感を得て、僕を呼び求めて、僕に愛を囁くあなたの存在そのものが僕の悦び。


 それでもどうしても・・・・・・・・・。
 あなたが力尽きて眠った夜更け、僕はいつも、少しせつない。


『愛してる』
 あなたが何度も何度もくれる言葉が、肌の感覚のない僕へのあなたの精一杯の愛撫だと知っている。
 ねぇ、僕も愛しているよ。愛しているよ。
 兄さんが僕の手を求めて、僕の手に快感を得られるならいいんだ。
 その気持ちは本当。


 でも、気持ちはいつもひとつではなくて。






 ときどき、無性にせつなくて、泣きたくなる。








 いとしいと思う気持ちだけでいられればいいのに。
 それだけあればいいのに。
 目で耳であなたを感じてそれで満たされるのに、なのにどうしてそれ以上を望んでしまうんだろう。
 どうして、僕はこんなにも欲深くて。
 どうして・・・・・・熱を感じられない身ならばいっそ、熱を欲を伴うことのないきれいな、ただきれいなままの想いであってくれれば良かったのに。
 なのに僕はあなたを自分に繋ぎ止めたくて。この手で指先であなたのすべてを暴きたくて。
 あなたをこの手で快感の海に沈めてしまいたくて。
 恍惚としたあなたの表情を見たい気持ちも本当。
 恋人を呼ぶ甘い声で僕の名前を呼んで欲しいと思う気持ちも本当。



 でも、そのたびに自分が肉体を持たない存在だと思い知らされて、せつなく感じる気持ちもどうしようもなく本当で。
 生身の肉体を取戻したくてあなたの熱を渇望して。
 どうしようもなく、渇望して。


 せつなくて、せつなくて。


 あなたの愛をこんなにも貰って。
 あなたに愛を告げることを許されて。
 しあわせなのに、こんなにもしあわせなのに。


 なのに、せつなくて、せつなくて。







 誰もが寝静まった、あなたが眠りに落ちた真夜中僕は。
 せつなさとやるせなさに支配されて、身動きの取れない時もあるんだ。




 どうすることも出来ない・・・・・・もうひとつの気持ち。






 せつなくて、せつなくて。





END