『 いとしくて、いとしくて 』
いとしくて、いとしくて。
この想いを自覚したとき、俺は、自分が狂ってしまったのだと思った。
血を分けた、それも同性である弟を恋い慕うなんて、正気ではないと思った。
けれどいとしくて、いとしくて。
とめどなく溢れる想いをどうすることも出来なくて。
この気持ちをお前に隠し通すことさえも出来なくなって。
愛してる、愛してる、愛してる。
想いは痺れのようにこの全身を駆け巡ってせつなく身体に火をともす。
覚えることの許されない熱を。
朝の光がまぶしく射して、意識が急速に引き上げられた。
着た覚えのない寝巻き。体液で汚れていたはずの身体もきれいに拭われて。
身体に残る甘い余韻はいつでも、ほんのわずかに苦さを含んでいる。
「目が覚めた?おはよう兄さん」
硬い残響をまとう柔らかな子供の声。
2メートルを裕に超える大きな鎧から発せられるそれは、肉体を失った10歳の頃のまま変わることのない、弟の声だ。
たった一つしか歳の違わない弟。
血の通わない金属の鎧にその魂を縛り付けて此の世につなぎとめて。
そんな体にしてしまって、ごめん。
必ず元の身体に戻すから、必ずその方法を見つけるから、どうか。
どうか、俺を捨てないで。
想いを受け止めてもらってからも俺はお前を失うことにいつも怯えて。
悲しくて。
お前の声に指先にその大きな掌にたくさんの快感をもらって、なのに何も返してやれなくて。
快感を分け合うことが出来なくて。
早くもとの身体を取戻してやりたいのに、まだその方法を手に入れることが出来なくて。
その金属の肌に縋って。
俺を捨てないでくれと縋って。
愛している、と、呪詛のように繰り返して言葉の鎖でお前を縛り付けて。
心の底から身体の奥からたえず溢れかえるいとしさでお前をがんじがらめに縛り付けて。
いとしくて、いとしくて。
交尾のあとで番った相手を食い殺す蟷螂の雌のように、お前を永遠に俺のものにしてしまいたいよ。
お前の身体を取戻して、俺の身体を教えて。
そのまま誰にもお前を見せずに永遠に俺だけのものにしてしまいたいよ。
いとしくて、いとしくて。
今も俺は、お前という犠牲の上に生きて。
俺が生きるためにたえずお前を犠牲にして。
いとしくて、いとしくて。
柔らかな朝陽の差し込む部屋で。
俺は暗い欲望を胸の奥にしまいこむ。
いとしくて、いとしくて。