『 そんな瞳で、僕を見ないで 』
窓辺に置かれた机に向かい、彼はまた文献を読み漁っている。
こういう時、どんなに彼に話しかけても無駄なのだとは最近覚えた。
驚くべき集中力。
彼の頭の中にはありとあらゆる知識が詰め込まれている。さまざまな数式、化学式、人体や鉱物の組成、力学物理学・・・・・・数え上げたら切りがない。
彼は天才なのだと思う。
そう言ったら、ただ見てきただけなのだと彼は笑った。
自嘲するような、見ていて悲しくなるような顔で、彼は笑った。
「エドワード、夕飯出来ているよ」
・・・・・やはりというか、返事はない。
「早く食べてくれないと片付けられない」
ああ、僕も昔はさんざん母さんに言われたな、この台詞。
「エド、エドワード!」
・・・・・・・・仕方がない。不本意だけど最後の手段だ。
僕は彼の背後に立つと、彼の耳元で小さく囁いた。
「・・・・・・兄さん」
弾かれたように、彼が僕を振り返る。
「アル!?」
大きく見開いた目が、けれど一瞬の後にはもう輝きを失う肩が落ちる。
「君が・・・・・・呼ばれて返事をしないのが悪い」
僕は、彼に背を向けて扉に向かう。
ああ、僕だってこんな手は使いたくはなかったさ。こんな、自分の手で自分を切り裂くような手段なんてさ。
だからそんな瞳で、僕を見ないで。がっかりした顔、見せないで。
ちゃんと僕の顔を見て、僕の声に振り向いて。
そんな瞳で、僕を見ないで・・・・・・。
END