『 螺旋階段 』








*** A


「ねぇアル・・・・・・本当にいいの?」
 僕が差し出した鋏を受け取りながら、ウィンリィが静かに、訊いた。
「うん。もう、いいんだ・・・・・・」
「・・・・・・そう」


 世界中を何度も回ってあなたの影を捜し求めて。
 何度も何度も国中を回って外国にも足を向けてぐるぐると回ってあなたの痕跡を捜し求めて。
 会いたくて。兄さんにどうしても会いたくて。


 なのにどこにも・・・・・・兄さん、あなたは居なくて・・・・・・・・・。




 もう、認めなければいけないのかもしれない。
 もう、受け入れなくてはならないのかもしれない。
 あなたがもうここには居ないと。
 兄さんがもう、どこにも居ないと。
 僕がここに居るということが、兄さん、あなたがもう世界のどこにも居ないということなのだと。
 もう・・・・・・認めなければならないのかもしれない。
 受け入れなければならないのかもしれない。
 あなたが・・・・・・・・・・・僕のいのちになったのだと。




 母さんを見送って僕らは母さんの笑顔が見たくて錬金術を鍛えて。
 朝も昼も晩も兄さんと二人で一生懸命勉強をして。
 兄さんと二人で。いつだって兄さんと二人で。
 いつもいつだって一緒に居たのに。


 会いたいよ。ねぇ、会いたいよ兄さん。


 会いたくて会いたくて世界中を探してなのにどこにもあなたの手がかりはなくて。
 諦めると決めてもまだ会いたくて仕方がないよ。



 強くてかっこよくてキラキラして綺麗でいつだって憧れてた。
 陽の光を浴びてキラキラしてきれいで兄さんと居れば寂しくないと怖くないと思えた。
 なのに目を覚ましたら4年も経っていてあなたは居なくて。
 この世界をグルグル回って螺旋階段のようにぐるぐると回ってあの光に近づいていけばきっと兄さんに会えると。ずっとそれだけを信じて旅を続けてきたけど。




 信じてきたけど・・・・・・でも・・・・・・・・・。




 もう、認めなければならないのかもしれない。もう、受け入れなければならないのかもしれない。
 あなたがもうここには居ないと。あなたがもうどこにも居ないと。
 あなたの命が、僕のいのちになったのだと。
 兄さんが、自分を代価に僕を生かしてくれたのだと・・・・・・。
 だからもう、兄さんはどこにも、居ないのだと。


 ジャキッ・・・・・・。


 頭の後ろで鋏が音を立てる。
 みんなから貰った写真のあなたを真似て伸ばした同じ色の金の髪。
 そのひと房を結んでいたゴムで丁寧に束ねてウィンリィが僕に手渡す。
「ずいぶん長く伸びてたんだね、ずいぶん長く旅をしてたんだね、アル・・・・・・」
 泣きそうな声で静かに笑って。
 僕が怪我をして帰る度に旅をやめろって、もう受け入れなきゃいけないって言っていたのに、やっぱり泣くんだね。
 そういって僕が笑うとウィンリィはそうだねとうつむいて、だってあの頃のあいつみたいにアンタ無茶ばっかりするから兄弟揃って無茶ばっかりするからアタシはいつだって心配してなきゃならないじゃないと声を震わせて笑って。



 兄さんを真似て伸ばした髪同じ色の金の髪。
 あなたのコートを着てあなたの服装を真似て。
 僕の知らない、僕らを知る人たちが僕を見て懐かしそうに悲しそうに目を眇める。
 みんなが僕を引き取ろうと言ってくれる。
『国家錬金術師エドワード・エルリック』の保護下にあった弟の僕は天涯孤独になってしまったからと・・・・・・。








 会いたいよ・・・・・・兄さんに会いたいよ。
 寂しいよ・・・・・・・・。


 きっと会えると信じて前を向いて歩いた。
 きっと会えると信じていたから前を向いて歩けた。
 あなたを諦めると決めてしまった今、僕は寂しくてたまらない・・・・・・。





 でも、もう、認めなければいけない受け入れなくてはいけない。
 だってあなたはどこにも居ないこの世界のどこを探しても何の手がかりも得られない。

 もう・・・・・・・・・受け入れなくてはいけない。

 会いたくても寂しくても希望のない暗がりのような世界を歩いてゆくのだとしても。
 きっと時間が、この寂しさをすこしずつ削り取っていくのだから。









 切り落とした金の髪を兄さんのコートと一緒に箱に詰めて僕らの家の焼け跡でそっと火をつける兄さんに別れを告げる。
 大好きだよと会いたかったよと何度も何度もつぶやきながら燃えてゆく赤を見詰め続けて・・・・・・・・。








END