窓から射しこんだ月明かりが、やわらかく部屋を照らす。
ゆるゆると覚醒する僕の耳が、くぅ、と小さな寝息を拾い上げる。
まだ霞む目に映るのは、小さな頭、ひまわりみたいな金の髪。
すやすやと眠るその姿に僕は、ちいさく笑った。
血を吐くことはほとんどなくなったとはいうものの、やはり夜中に咳き込んだりうなされたりする僕の傍にはいつも誰かがこうして付き添ってくれている。
やさしく背を摩り、熱を持って乾いた咽喉を潤す冷たい水を差し出してくれる。
ここで僕は一人ではないと知り、安堵する。
わけも解らないまま扉を抜けて来てしまった僕を家族みたいに迎え接してくれるここの優しい人たちに、もう本当に、子供みたいに甘えて赦されて癒されて。
幸せだな、と感じて、そんな自分に少し、僕は戸惑って。
でも、それでも幸せで、あらがいがたく幸せで。治るはずのない病気をこの胸に抱えた僕を神様が目こぼしてくれているのかなと、思ったりした。
この世界に災いを持ち込んだ僕のことさえも、ここの神様は赦してくれるのかな、と。
だけどこのところ、身体の調子が良くなってきていて。
もしかしたら治るんじゃないかって、まだ、生きられるんじゃないかって。
どこか期待してしまっている自分にも気づいて戸惑って、少し・・・・・・せつなくて。
「・・・・・・アルフォンス君・・・・・・・・ねえ、そんなところで寝ていると風邪をひくよ」
脇に置かれた椅子に腰掛け、ベッドに突っ伏して眠るその小さな肩をそっとゆする。
「・・・・・・・・・んーーー・・・・・・・」
ほんの少し頭を上げて目をこするけど、やっぱり眠そうな曖昧な返事が聞こえて。
そういえば彼はこのところずっと、国の図書館から借りてきたという難しそうな外国の書物を読み漁っているという。
「ね、僕は大丈夫だから、部屋に戻ってちゃんとベッドでお休みよ。ね?」
子供をあやすみたいに頭を撫でる。少し硬くてしなやかな髪。
「うん・・・・・・・・・明日・・・・・・晴れ・・・たら・・・・・・・・・・・・・・」
謎の寝言に笑いを堪えながら、でもこのままでは起きる気配も見られなくて。
僕は少し壁際に身体をずらして、上掛けの端を持ち上げた。
「ここで寝る?入る?」
「・・・・・・んーーーーー」
まだほとんど寝ているような声で、アルフォンス君がもそもそとベッドに入って、寝場所を決めたみたいな溜息をついた。
やんちゃで、すくすくと育ってひまわりみたいに笑って。
時々やけに大人びた顔をして。
エドワードさんと並んでいるとそれほど感じないけれども、こうして寄り添っているとやっぱり13歳の子供らしく小さくて。
(かわいいなあ・・・・・・)
まるで僕に弟が出来たみたいで可愛くてこそばゆくて嬉しくて、幸せだなって、思った。
次に生まれてくるときには弟がほしいなこんなかわいい弟が、とも。
この優しい異世界で僕は、犯した罪もこれまでの人生もすべて赦されたみたいに幸せで。
腕の中で寝息を立てる子供の体温が心地よくて、僕はまたやさしい眠りに誘われる。
まだ、僕は知らない。
明るい陽射しと笑い声で目覚める明日・・・・・・晴れ渡る空の下むせ返るような緑の草原で。
その小さな掌が生み出す、あたたかな光に包まれる。
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*** おまけ ***
「こうして並んで寝てると、やっぱ似てるわねー」
「だよなぁ」
くすくすと笑う話し声に、暖かな陽射しに、僕はゆっくりと覚醒した。
きらきらと金色で、まぶしくて、目が開かない。
「ア〜ル。お前、なにアルフォンスのベッドに潜り込んでんだ」
エドワードさんの笑い声。鼻をつまんだのか、アルフォンス君の‘ふがっ’という声が聞こえる。
「・・・・・・ん〜〜・・・・・・・・・はよ」
かんたんな挨拶、でも、どう聞いても目が覚めてはいなさそうな声。
次の瞬間、柔らかなものに口を塞がれる。
「んっ!!!???」
「なんだこれ・・・・・・・・・寝ぼけてんのか?アル?」
「んーーーーーっっっ!!」
「って、あんたたち兄弟のおはようのキスって、マウス・トゥー・マウスなわけ?」
「しねーよっ!」
ちょ・・・・・っそんなことはどうでも良いから早くたすけてっっ!!
「んーーっ・・・・・・ぅん・・・・・っ」
「あ、舌はいってるわよアレ・・・・・・・・・」
見てないでっ!早く助けてくださいーーーっ!!
懸命に念じてはみても、それが都合よく届くだなんてそんな非科学的なことは起こる訳もなく。
歯の裏をなぞられて絡めとられた舌の先を甘く咬まれて。上手く息が継げなくって頭の中がくらくらとして。
「こらアルっ!!離れろって!!!」
ようやくエドワードさんが寝ぼけた彼を引き剥がしてくれたけれども、もう体中どこにも力が入らなくって。
「あらら、涙目」
荒く息をついて必死で酸素をむさぼる僕の顔をエドワードさんが覗き込む。
「アルフォンス・・・・・・お前、もしかして・・・・・・・・・砕けたのか、腰?」
「末恐ろしい子供ね、アル・・・・・・・・・」
末恐ろしいも何も、もう充分に怖いですよ!
霞んだ目で精一杯にらみつける。
「あぁ、ほら、泣かない泣かない」
エドワードさんとウィンリィさんの二人の手が、僕の髪をわしわしと、撫でた。