『 濃厚悩殺フェロモンにどきどき 』











「君達が身体を取り戻して、かれこれ2年か・・・・・・・・・早いな、鋼の」
 アルフォンスずいぶんと大きくなったものだなあんなにガリガリだったのにと、生成りのカーテンの緩やかなはためきを背景にして、目を据わらせた大佐が言う。
「・・・・・・・・・なんでそこで‘は’だけ強調しやがるクソ大佐」
「彼はもう、私の身長を超えている。真理の扉から奪還したときには、君とたいして変わらなかったのに」
 論点そっちのけの最重要項目は今でもなんら変わりはなく俺にとっては今でも地雷で、『アルが身体を取り戻せばすべて解決!』という期待を他所に、弟は一人で勝手ににょきにょきと日々成長している。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・俺を置き去りにして・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「俺だって、伸びてんだよ」
 鼻面に思いっきりシワを寄せて歯を剥いて。
「2年で3センチくらいか?弟は30センチじゃきかないようだが?」
 眉を片方ピクリと上げて大佐は、親指と人差し指で3センチほどの隙間を作る。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅう・・・・・・・・・っっ」
 米神で血管がブチブチいう音を聞きながら、俺はぐっと拳を握り締める。
 ここで暴れてもどうせ、室内にいる喰えない連中に子ども扱いされて軽くあしらわれるのがオチだ。
 18歳になっても子ども扱い・・・・・・・・・同じ速度で連中だって年をとっているわけだし、俺が11歳の頃から知っているのだから、面白くはないけど仕方がない。



 仕方はないとはいえ・・・・・・・・・。



「なんで俺ばっかり!?アルのことは子供扱いしねぇじゃん誰もっっ!?」
「彼はもう、充分に大人だからだろう」
 眉間に薄く皺を寄せて、大佐が執務机から立ち上がる。そんな顔して見せたところで、デスクワークから離れられるのを内心喜んでいるなんてことはバレバレだぜ。
「そのアルフォンスだが、3日前からここに出入りしていることは知っているか?」
「ああ、アンタに用があるって言って出かけていく。何しに来てんだ?あいつ、俺が訊いても笑ってはぐらかすし・・・・・・・・・」
 この3日間、アルが考えていることがわからなくて、いやな予感ばかりが胸をよぎる。
「入隊希望を出しに来た。平和になったからこそ、国家資格を取って人の役に立ちたいと。彼らしいことだ」

 嫌な予感というのは、どうしてこうも当たるんだろう。

 顔が上げられない俺の耳に、コツコツと固い軍靴の足音、ドアノブをひねる錆付いた金属音。
「俺はいやだ。せっかく人並みに暮らせるようになったのに・・・・・・・・・あいつはもう、ただ、幸せになればいいんだ」
 苦しくて、息をしたくて、俯いていた顔を上げる。
「ああ、私も断ったよ。推薦状なんか書く気はサラサラない。それに・・・・・・・・・」

 大佐が、廊下に繋がる扉を開ける。

「実は・・・・・・・・・彼に対するクレームやら問い合わせやらが相次いでいてな・・・・・・・・・」
「へ?」
 どゆこと?クレーム?アルに?????
「なんでアルに!?あんな‘爽やか好青年’なのにっ!?」
「・・・・・・・・・まあ、そうだな。見た目は確かに爽やかだ。それは私も認めよう。だが・・・・・・・・・」
 ちょっと来てみろと、大佐が手招きをする。
 意味がわかんねぇけど、促されるまま廊下に顔を出す。




「・・・・・・・・・・・なんだ、ありゃ?」




 中央司令部の長い廊下に点々とへたり込む、頬を染めた女性職員たち。うるうると揺れるその視線は、皆そろって一方向を向いている。
「あれが、アルフォンスの通ったあとだ」
「へっ!?」
 驚いて俺は大佐を振り返って、またすぐに廊下の先へ視線を戻す。
 その間、わずか1秒。ポニーテールにしている後ろ髪がびゅんびゅんびしっと音を立てる。
「のあっっ!!その髪は凶器か!振り回すんじゃない危ないだろうっっ!?」
「んなこたーどーでもいいっっ!何したんだあいつ!?まままままさか女の人に無体なことして回ってるんじゃっっ!?」
 一体何をしてるんだ弟よ!兄ちゃんはお前をそんなふしだらな子に育てた覚えはぜんぜんないぞ!!
「彼は何もしていない。彼女たちには指一本だって触れていない」
 アルフォンスはただ・・・・・・・・・と、声を落として大佐が言う。


「通り過ぎただけだ。彼女たちの前を」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?




 眉根を寄せている大佐に負けないくらい俺も眉間に深くふかく皺を刻んで振り返る。
 だって、訳がわからない。
「通り過ぎただけでなんで、あのネーチャン達あんなヘロヘロぽわわんってなってんだよ一人残らずっ!?」
 驚いたように一瞬目を見開いた大佐が、でもすぐに何かを納得した顔をする。
 ああもう、まったく訳がわからねぇ。
「そうか・・・・・・・・・流石、兄弟だな。君には通用しないということか」
「だから!一体何がっっ!?」



「・・・・・・・・・フェロモン、だ」



「はぁ?」
「若いオスの強烈なフェロモンに中てられて女性職員たちは揃いもそろって腰砕け。これでは業務に差し支えると、各部署からはクレームの嵐、当の女性たちからは彼についての問い合わせが矢の如く殺到」
 そんなこんなで、私もまったく仕事に手がつかない由々しき事態だ困ったものだ。なんて肩を竦めた後ろから、軽やかに刺さる中尉の一声。
「大佐、アルフォンス君を言い訳にしていないで仕事をなさってください」
 第一そのクレームの処理に直接当たっているのは少尉たちでしょう、と、相変わらず容赦なく。
「しかしだな・・・・・・ほら、彼をあまり一人でうろうろさせていて苦情が入ってもいけない。だからちょっと探しに・・・・・・・・・」
「あ、それなら俺が行って来る。大佐は安心して仕事してろよ、な♪」
「アルフォンス君なら今、事務局に行っているはずよ。でもちょっと遅いわね。時間がかかっているのか寄り道しているのかも知れないわ」
 中尉がにっこりと俺に笑いかける。俺も中尉に笑い返して部屋を出る。




 しっかしこのだだっ広い中央司令部、アルは今どこに・・・・・・・・・・って、あぁ、あのネーチャンたちを辿っていけば会える・・・・・・のか・・・・・・・・・・・・?


 恐るべき、わが弟。
 つーか、なんでアルばっかり・・・・・・・・・?


 別に女にモテたいとかそういうんじゃないけど、あいつばっかり一人で大人になっていってしまうみたいで悔しいというか寂しい。
 大佐が言ったとおり、取り戻してすぐの頃には身長だってそれほど違わなかったのに。

 なのにフェロモン?

 兄弟だから効き目がないのかただただ俺が鈍いのか、すっかり見上げるようになったアルの顔はいつも目が合えばニコニコと機嫌よさそうに笑っていて、オトコの色気も何も感じたことなんて一度だってありはしない。むしろ優しくてあったかい。
 だのにこの10メートルと開けずにへたり込む、大佐が言うところの『アルに悩殺されたネーチャンたち』にはそのフェロモンとやらがビンビンに伝わったっていうことで。


 アルばっかり、大人になっていく。俺を置き去りにして。


 目印を辿りながらアルを探して歩く。なんだかどんどんムカツイテくる。
 何だよコイツ等、発情してるみたいな顔しやがって。
 俺のダイジな弟のこと、ヤラシー目で見やがって。
 大体なんだよ『若いオス』だなんて。







 なんか、嫌だ。むかむかする。


 アルのこと、いやらしい目で見やがって。




 ムカツキながら、早くアルを見つけようとネェチャンたちは視界に入れないようにしながら、足早に進む。
 突き当りの角を曲がったとたん勢いよく開くドア。
 避けきれない間に合わないと悟った瞬間グイと腕を引かれて、間一髪で難を逃れる。
「危なかったね、怪我はない?兄さん?」
 ぽふん、と。
 長い腕が俺をガードして広い胸がクッションになって、俺は無傷。
 守るみたいに抱きこまれた腕の中から見上げるのは、いつもよりずっと近い位置の、いつもどおりの優しい笑顔。
 背中に伝わるアルの体温、眇めた瞳、金色のまつげ。

 どきん

 え?な、なになに何このドキドキ?
 なんでドキドキ?毎日見てるだろアルの顔なんて?
 えぇぇぇぇぇぇええぇえ?
 まままままさかこれ!?若いオスのフェロモンってヤツ!?
 えぇぇぇええぇぇえぇえええええェェ!?



 ・・・・・・・・・と。



 焦りまくっている最中、いきなり割り込むあからさまな殺気。二の腕にゾワリと悪寒が走る。
 それも一つや二つじゃない・・・・・・・・・取り巻くような、複数の・・・・・・・・・・・。


 こんな、軍施設の中の・・・・・・・それも、ホムンクルスたちやかつての上層部も一層された、戦争の為というより治安維持と行政のために存続しているような、ちょっと暢気なはずのアメストリス軍中央司令部内の廊下で・・・・・・・・・?

 この剥き出しの憎悪はいったい・・・?
 思わず無意識に息を潜めて、視線だけを廻らせる。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・そこかしこから俺に集中する悪意ある視線は・・・・・・・・・・廊下に転々とへたり込む、軍のねーちゃん達から発せられていた。
 刺さるようなギラついた視線に、思わず息が苦しくなる。





 こ・・・・・・・・・っ、殺され・・・・・る・・・・・・・・・・・・・っ





 背筋を冷たい汗が伝う。
 なんていうか「見つかったら殺される」って感じだ。意味がないと思いながらも息をついつい潜めてしまう。
「ん?どうしたの兄さん、びっくりしちゃった?すごい緊張してるね」
 おまえ何そんな幼子を見るような目は?口元がほころんでるぞ、おい?
 ぶんぶんと首を振って否定を表す。途中目に入った大きな茶色の封筒。

 何が入ってんだよ、それ。

 聞きたくて仕方ないけど・・・・・・・・・・・・・・・・・この場を離れることが先決。ここはあまりにもシンゾーに悪い。
『視線』が目に見えたらぜってー、俺すげぇ串刺し。四方八方からザックザク。
 こえぇよぅ・・・・・・・・・。
 とにかくアル、その手を離せ。俺はまだ死にたくない。
「とっ、とりあえずさっさと大佐の執務室に戻ろうぜ、いつまでもこんなところに居ないでさっ?」
 するりと腕から抜け出すと、アルが困った顔で、笑った。
 形のいい眉をハの字に寄せて笑う、すらりとした立ち姿を振り仰ぐ。
「ホラ、ぼやぼやしてんなよ!」
 急かして手を引き、来た道を急ぐ。

 大きな手が俺の手を握り返して、心臓がトクンと鳴った。
 
 なんなんだよ俺いったい!?なんでドキドキしてんだよ!?あぁでもとにかく急いで安全な場所に逃げないとっっ!!


 もうほとんど駆け込む勢いで出入りし慣れた一室に戻り、ようやく人心地付く。
 走ったせいでなく心臓がドクドク鳴るのを必死で宥める。視線を感じる。
 まだ笑っている、アルのまなざし。
 何笑ってんだよ、そんな優しい目であんまり見るなよ心臓に悪い。

 って言っても、さっきとはまったく違う意味で。もうホントにいったいなんなんだよ俺?
 なんなんだよこのキラキラのドキドキは!?



「やあ、早かったな、エルリック兄弟」
 あぁなんかもう、爽やかに笑う大佐がやたらと気に触る。
 なんか言って噛み付いてやろうと構える俺の前に影が割り込む。

「マスタング大佐、第3図書館D区画の閲覧申請用紙、貰ってきたんでサインお願いします」

 第3図書館の、その辺りにあるのは確かこの国の法律や歴史関係の書籍の数々。同じ歴史書でも錬金術に関する文献は主に本館で、そこはもう、身体を取り戻す前に散々二人で読みちらかした。


 アル、お前一人で何を読むんだ?
 今までずっと、二人で額をつき合わせて同じ本を読みふけって意見を交わして。

 なのにお前、たった一人でどこに行くんだ?
 俺を置いて、たった一人で?


 大きくなった背中が、なぜか急に遠く感じる。



 アル、お前、俺を置いてどこに行くんだよ?




 と、シリアスに浸る俺の目の前で。

「大佐、ふざけているんですか?」
「いいや、ふざけてなんかいない」
 アルが1歩近づくと、大佐が1歩、後へ引く。
「用事はさっさと済ましてしまいたいんですが」
「書類は机に置いてくれたまえ」
 さっき大佐が自分で言っていたとおり、その身長を軽く追い越したアルは、どうやら足の長さでも上まっているらしく、後ずさりしている大佐との距離は絶妙に縮まってゆく。
「サインをするだけです、そんなに手間じゃないでしょう?」
「他の仕事もあるんだ、なに、それほど待たせるわけじゃない。だから机に置いてくれ」
「そうやって後回しにするからどんどん仕事がたまるんじゃないですか。名前書くだけでしょう、あの書類の山に紛れ込んだら何時になるかわからない」
 アルフォンス君の言うことは正しいわねと呟き頷くホークアイ中尉、そそくさと自分の仕事を片付ける素振りでしっかり聞き耳を立てている少尉たち、肩を怒らせて大佐を追い詰めるアルフォンス、部屋の角に追い詰められて壁と一体化しようとする焔の錬金術師。


 今までシリアスだった俺だけちょっと取り残されている。


「くっっ来るな寄らないでくれ頼むからっっ」
「なにわけの解らないこと言ってるんですか、逃げることはないでしょう?」
 そういえばそうだ。まったくアルの言うとおりだ。
 なんであんなに必死で逃げてんだアノヤロー?

「書くっっ書くからっっっ!!あぁっそんなに近づいたら・・・・・・・・・はぁぁぁうぅっっっんっ」

 部屋の角、壁に張り付きながらみるみる崩れ落ちてゆく大佐は涙目、首元から耳まで真っ赤に染まってなんだかデジャヴ・・・・・・・・・つーより。



こ い つ も か ! ! !



 っっったくどいつもこいつもアルにサカリやがってっ!この変態色情狂どもめっっっ!!

 こめかみがブチブチと鳴るぐっと拳に力が入る、勢いで殴りかかろうとしたその途端に割り込む薄い氷のような声。
「あら、エドワード君、あなた熱でもあるんじゃないの?顔色が悪いわよ?」


 その声に、たった今まで部屋の角に大佐を追い込んでいたアルが、俺を振り返る。慌てた様子で駆け寄ってくる。


 えっ?えぇっっっ!?
 いやいやないない!!熱なんかないし何を急に・・・・・・・・・中尉っっ!?
「一刻も早く家へ帰って休ませてあげたほうが良いわね。アルフォンス君、書類は明日の朝には必ず用意しておくからエドワード君を連れて帰ってあげてちょうだい」
「はい、中尉。そうします・・・・・・・・・兄さん、大丈夫?歩ける?」
「だっっ大丈夫大丈夫!!歩けるし、俺なんともないしっっ!!」
 抱っこしてあげたほうが良いんじゃないかしらと、とんでもないことをいう中尉の言葉を必死でさえぎる。なんてこと言うんだこの人はっっ!?
「さあ、帰ろうか兄さん」
 心配そうに俺の肩を抱いて促すアル。
‘助かった’といわんばかりの顔で立ち上がる大佐。


 ・・・・・・・・・・・・・売られたのだといい加減俺も悟る。


 なんとも言えない見捨てられた子犬の気分で中尉を見る。いつもどおりの表情を抑えた顔。その足元のブラックハヤテ号が尾を振りながら鼻を鳴らして俺を見上げる。
 他の連中は目をあわすまいと他所を向く。



 たった一つ、感じた視線。見上げたのは気遣うような金の瞳。



 見慣れたそれが、見たこともない色合いと揺らぎをもって俺を見つめる。
 くらくらする引き込まれそうな錯覚。やばいんじゃないかという気がする。
「足元気をつけてね、つらかったらすぐに言うんだよ?」
 甘やかすようなテノールに、クラクラきらきらドキドキして顔が熱い。




 司令部から二人で暮らすアパートメントまでの道中、視線の集中砲火を浴びながらも、それがまったく気にならないほど俺のココロはふわふわしてたんだ・・・・・・・・・。









 ベッドの上に積み重なっていた本を手際よく片付け、シーツまで換えてもらって寝室へ通される。
 外に干したのだかお日様の匂いのするパジャマを差し出され、しかも着替えを手伝ってもらったりなんかしちゃっている。

 って、待て待て待て、だから俺は具合なんか悪くないんだってば。

「目が潤んでる・・・・・・やっぱり熱があるのかな?」
 そう言ってアルは俺の前髪をかき上げ額を触れ合わせる。

 ぎゃひぃ――――――っっ

 キスしちゃいそうなくらい近づいた端正な顔に心臓が跳ね上がる。火を噴いてるんじゃないかってくらいに顔が熱い。
「うん、熱いね、横になったほうがいい。くらくらしない?体重かけちゃっていいよ」
 いやもう、熱じゃなくてくらくらするんだけどっ!!
 なんかもう、くらくらドキドキしちゃってますけど!!!


 抱きかかえられるようにして、まるで壊れ物のように丁寧な手つきで横たえられる。
 目の前の、顎から首筋のラインが男っぽくってエッチっぽくってもうどうしたらいいのか判らなくなる。


 これってもしかしてあれなのか!?
 若いオスのフェロモンに中てられちゃってる状態なのか俺っっっっ!?
 なんかもうパニクって頭の中はぐるぐる心臓はばくばくアルが格好良くって男くさくて堪らなくくらくら。
 もうホント、やばいから!!!!

「兄さん。駄目だよ、そんな顔したら・・・・・・・・・・・・・我慢できなく、なる・・・・・・・・・」
 我慢て!?えっ何!?ちょ・・・・・・お前なんて顔してんだ!?そんな、獰猛な生き物押さえ込んでるみたいな顔でなんてこと言ってんだっっ!?
 ややややっぱアレか!?我慢ってやっぱそれかそれなのかっっ!?
 ヤバイだろそれはまずいだろそれは!


「我慢・・・・・・・しなくてい・・・・・・から・・・・・・・・・・・・・」


 えっ?


 ・・・・・・・・・えっっっ!?何今の俺っ!?俺の声っっ!?
 俺ってばなんてこと口走っちゃってんのっっっっっ!?



 驚いて目を丸くしていたアルの顔が、泣きだしそうな笑顔に変わる。
 ベッドに横たわった俺に、覆いかぶさるようにして抱きしめてくる。
 きつくきつく、くるおしく。
「夢みたいだ・・・・・・・・・兄さんが、受け入れてくれるなんて・・・・・・・・・・・・・」

 えっええっっ!?今の俺!?ホントに今の、俺が言ったのっっ!?



「い・・・・から・・・・・・・・・アルの好きにして、いいから・・・・・・・・・」



 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええっっっっっ!!!???
 どどどどどどうしちゃったの俺ってば!?

 ま・・・・まさかこれが若いオスのフェロモンの威デスカっっっ!!!???


 脳内はパニック起こして硬直してるのに腕にも足にもぜんぜん力が入らねー。長い腕に広い胸に包み込まれて訳が解らないのにどこか安心しているみたいに。

「ずっと言いたかった・・・・・・・・・・・・愛してる、って」

 耳元で甘く低く囁かれて、尾てい骨どころかつま先まで電気が走る。その破壊力をつき付けられる。か、敵わない・・・・・・・・・・・・・・・っ。
 口付けられる、大きな掌が俺の身体をなでてゆく。


 ヤバイだろ!俺たち兄弟だしっっ、なっっ!?
 なのに俺の口からこぼれるのは誰コイツってくらいの甘ったるい吐息。
 弾力のある舌で口の中をまさぐられて脳髄まで溶かされてく、意識が混濁する。



 に・・・・・・・・・・・逃げられな・・・・・・・い。



 ふ・・・・・・・と、身体の上からアルの重みが遠ざかる。
「ちょっと待ってて・・・・・・・・・」
 いつの間に脱いだのだか、裸の上半身。窓からの光に、そのラインが綺麗に照らされる。
 しっかりとした、王者のような足取りでまっすぐその窓に向かい・・・・・・・・・。













「あ、カーテン閉めた」
 彼らの住むアパートメントからおよそ300メートル。
 アメストリス軍中央司令部、マスタング大佐の執務室の窓辺で、手にした双眼鏡を下ろしてジャン・ハボックが呟いた。
 一度は退役したものの、ドクター・マルコーの錬金術と気合と根性のリハビリで、再入隊後にマスタング組に返り咲いた彼は、時折不自由そうなしぐさを隠れてしていたりもするものの、以前のように笑いながらタバコをふかしている。
「食べられちゃうんでしょうかね、エドワード君」
「おとなしそうな顔していきなり核心に触れんなよ、曹長」
 皆に茶を配っていたフュリーの呟きに、マスタングは茶を噴出し目の前の書類にシミを作って慌て、ブレダはすかさず突っ込みを入れる。
「ブラコンのアルフォンス君のことだから、ああ言えば食いつくと思ったのよね」
 肩をすくめながらカップに口をつけるホークアイに、相槌を打つようにハヤテがワンと一鳴きする。
「ブラコンと呼べる可愛らしい一線を軽く一跨ぎ・・・・・・・・・」
 淡々としたファルマンの一言に、ずーん、と重苦しい空気が執務室に満ち満ちる。


「さ、お茶を飲んだら仕事の続きをしましょう」




 やたらサバサバとしたホークアイ中尉の姿に、何事もなかったことにしてしまうのかっ!?と、300メートル先のカーテンの向こうを案じつつ・・・・・・・男衆の心の中は、異口同音。











END