『 空想妄想困惑自爆っ!? 』









 さまざまな店が軒を連ねるセントラルの目抜き通りで、ボクは暢気に買い物なんかを楽しんでいた。
 道行く人々は秋の装い落ち着いた色味のアースカラー。
 このところは昼間といえど雲も厚く冷え込む日が続くので、時期的には少し早いかとも思いつつ、今日はボクもマフラーを巻いて出てきた。


 生身の肉体を取り戻して、ホムンクルスたちとの戦いも終えてかつての軍の上層部も一掃されて。それからまた数年が過ぎて僕たちは成人した。
 この国の人々は、自分たちに近づいていた危機も恐怖も知ることなく、今も幸せに暮らしている。




 何もなく吹きっさらしなリゼンブールよりも、背の高いアパートメントが立ち並ぶセントラルのほうが寒いと感じるのは何故なのだろうと思いつつ、本屋の前をただ通り過ぎることの出来ない自分も兄さんのことばかりは言えない知識オタクなのだなと苦笑する。
 吸い込まれるように本屋へと入り、興味を惹かれた2〜3冊の本と共に街路へ戻る。

 風が足元を抜けて、石畳の上を落ち葉が舞う。

 ああ、今夜はシチューにしようか、兄さんの好きな。
 相変わらず牛乳嫌いの兄さんも、ホワイトシチューだけは良く食べる。まったくゲンキンだなと呆れるけど、うれしそうに頬張る顔を見るのは嫌いじゃない。


 献立も決まったことだし市場へ行こうと、自動車の行き交う往来を渡る。

 ふと、目に入ったショーケースに並ぶのはつややかな工具類。
 あぁ、ウィンリィは元気かな、と、遠い故郷の幼馴染を思い浮かべ、彼女の手に収まりそうなスパナを無意識に目が探す。
 冬の休暇には兄さんを連れてリゼンブールにも帰ろうと、土産のつもりで物色する。
 値段も大きさもよさそうなものを見つけ、満足して店を出て3件目。

 アクセサリーショップのショーウィンドウにセンス良くディスプレイされた、かの幼馴染の瞳のような青い石のはめ込まれたピアスに、そうだ女の子に土産ならこっちだろうと、十数分もスパナの物色に費やした自分が可笑しくなる。


 スパナよりも幾分お高い値段設定に、兄さんにも半分出させるかと笑いながら通り過ぎようとした7件目のショーウィンドウ。



 豪奢なレースをふんだんに使ってそれでもなお清楚な、純白の、ウエディング・ドレス。
 似合うだろうな兄さんに。


 ・・・・・・・・・・・・・あれ?今、何か・・・・・・・・・?


 違うだろう?何で兄さん?ここで想像すべきは女性であるウィンリィやホークアイ中尉だろ?
 あははは、間違い間違い。もう一回やり直し。




 男である僕でさえ見蕩れるそれを身に纏った恋人といつか祝福されるのだろうかと、目下、恋人の影もないのに空想をめぐらせてみる。

 晴れ渡る空のした鳴り響く鐘の音。祝福の声が作るアーチの中、花びらの雨を浴びながらその人をエスコートする。
 白い手袋、握られたブーケ。
 つないだ手の先できれいに微笑む兄さん。


 ・・・・・・・・・なんだって、一体?


 なにゆえこんな幻をと目を擦って、もう一度その純白を見直してみても何度見てもレースのスタンドカラーの上に思い浮かべるのは伏せた金の睫毛、誓いの口付けを待つ兄さんのふっくらとした頬。


 おかしい・・・・・・絶対おかしいそんなありえない。
 想像の中とはいえ、うっかり兄さんにキスをしかけて・・・・・・・・・。



 あぁ、なんか変な汗が背筋を伝う足元がふらついて覚束ない。
 よろよろともつれるように入り込んだ路地裏。薄暗いそこに突然光が射して何事かと見やれば、目に飛び込むのは色とりどりのレースにオーガンジー。
 マネキンが身につける色味ばかりが清楚な白のベビードール、セクシー・ランジェリー。

 サテンシルクのリボンの下、大きく開いた前スリット。形いい臍なだらかな下腹。
 もはや隠すことなど想定していない左右に割れたその小さなショーツから零れそうになるのを泣きそうな顔で恥らい隠そうとする兄さんの手首を掴んで外させて収まりきらない金色の下生えや色づいた果実を目でたっぷりと味わって・・・・・・・・・・・。



 ぶーーーーーーーーーーーーーーっっ



 飛び散る飛沫、赤い血潮。店のオヤジが慌てて飛び出してくる。
「ちょっとお兄さん困るよ!売り物に鼻血なんかかけられちゃ!!」
「ごっっごめんなさいごめんなさい!お金、払いますっ!!」
「どの道コレじゃぁ売り物になんないからお兄さんコレ持って行ってよ!!」
 断る暇すら与えない早業で、鼻血の点々と付いたその怪しげな上下を紙袋に包み込んで手渡される。
「こっっ!困ります!どうしろって言うんですかコレっっ!?」
「彼女にでも着せてやれ!燃えるぞ!!」
 上を向けて拡げられた掌にお金を載せれば、もう用は無いとばかりに店の外にポイと出される。
 僕の手にはやたらとコンパクトな真っ赤な紙袋中身はとてもじゃないけど人には見せられない。
 突っ返すことも出来ず挙動不審な僕に近づく足音。捨てることも叶わず内ポケットに慌てて隠す。


 冷や汗たらたらでギクシャクとその細い路地を抜けて出た大通り。歩道の片隅で深呼吸して人心地ついて汗を拭う。
「あれ?そんなところで何やってんだ、アル?」
 もう飛び出すんじゃないかと思うくらいに跳ね上がる鼓動。
「に、ににに兄さんっ!?」
 僕の動揺なんて知らずに軽やかに駆け寄る。笑顔さえも浮かべて。
 よくよく周りを見回せば見慣れた風景、通い詰めたなじみの図書館。兄さんがいるのは何の不思議もありはしない。
「お前・・・・・・」
 いぶかしむように僕を見上げる兄さんに、すべて見透かされたような気持ちと焦りで心拍数は下がらない。
「ななな、何かな、兄さん?」
「具合でも悪いのか?鼻血、出てるぞ」
 ポケットから出したハンカチを僕の鼻の下にあてる。
「ありゃりゃ、乾いちまってるな。ちょっと待ってろ」
 そう言って折りたたんだ端を銜え、湿らせたそれで僕の顔を丁寧にぬぐう。支えるように添えられた左手が、火照った頬にひんやりと気持ちいい。
「熱、あるんじゃないか?大丈夫か?」
 体温を看る仕草で首筋に触れられて、脳天から尾てい骨に電撃が直下する。
「だっっ、大丈夫。ちょっと・・・・・・・走った、からさ」
 引き攣った笑顔をどうにか作る。
 なら良いけどなと兄さんが笑う。

 僕らの横を北風が渦を巻いて通り過ぎる。

「くちっ」
 兄さんが小さくくしゃみをする。ぶるりと震える兄さんとは対照的に僕は暑くてたまらない。
 巻いていたマフラーを外して、兄さんの首に巻きつける。
「お前は?寒くないのか、アル?」
「僕は、走ったばっかりで、暑くってさ」
 ははは、と笑えば兄さんはその言葉に安心したみたいになら借りておくと目を細める。


 ぐるぐる巻きのマフラーにを鼻先を埋めてきゅっと目を閉じて、あったけぇ、と笑う。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・か・・・・・・可愛い・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 早鐘を打つ左胸にカサリと当たる、内ポケットの紙袋・・・・・・・・・。


「なぁ、晩飯なににする?」
「あ、うん。シチューにしようかな・・・って」
 一際嬉しそうに顔を輝かせて、兄さんが破顔する。
 それなら市場で買い物をして帰ろうと、僕の手を引く。


 僕は内ポケットに気を取られている。




 その手首を、解いたあの白いリボンで縛り上げて・・・・・・・・。


 僕の頭の中で繰り広げられる妄想も知らず、兄さんが笑いかける。


 恥らって閉じようとする腿を割って白いレースに顔を埋めて・・・・・・・・・。




 オレンジに染まる空に白い鳩が一斉に飛び立ち、兄さんが小さく歓声を上げてそれを見上げる。



 僕はいったい・・・・・・・・・どこに行こうとしているんだろう・・・・・?









END