『 人の気も知らないでっ! 』(後編)
目が、無意識に兄さんを追う。
しぐさの一つ一つが微笑ましい。
光に溶ける金の髪ふっくらした頬。
日向の猫のようにまどろむ姿。
幸せな猫のように無防備な寝顔。
その頬に触れてみたいと思う。
時々僕の視線に気づく。
嬉しそうに笑うくすぐったそうに笑う。
僕の胸が甘く締め付けられる。
いけない。
この気持ちの名前を知ってはいけない。
傍に居られなくなるから。
この気持ちの名前を知ってしまったら兄さんの傍に居られなくなってしまうから。
僕たちは血の繋がった兄弟なのだから・・・・・・・・・。
なのに・・・・・・この人はまったく・・・・・・人の気も知らないでっ!
その姿を見て僕は目を瞠った。その姿を見て僕は息を呑んだ。その姿を見て・・・・・・!!!
だって今僕の視線の先を横切る兄さんの格好といったら!!
たっぷりとしたYシャツはボタンを上から3つも外してその薄い薄い生地には小さな乳首が控えめなのか大胆なのかぷくりと浮いて。深く切れ込んだサイドのラインから覗く太腿白い生脚。
ちょっと待て。兄さんの下着はみんなゆったりとしたトランクスじゃなかったか?
あんなに脚がたっぷり見えるはずが・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・・・?
穿いてない・・・・・・・・・・・・の、か・・・・・・・・・?
と言うことはあの薄い布の下にはさまざまなお宝が剥き身で・・・・・・いやそんなことよりっ!!
毎日毎日いつどんなときでも僕は理性と忍耐と道徳心と倫理観を総動員して元気いっぱい育ち盛りのムスコを宥めて賺して襲い掛かりたがる身体を心で羽交い絞めにして耐えて耐えて耐えて・・・・・・・・・・・・・・もうひたすらに耐えて!!
賽の河原で涙ながらに積み上げた石をお色気ムンムンの鬼がにっこり笑って突き崩していく・・・・・・・・・。
なんだと思っているんだこの人は僕の苦労をなんだと思っているんだいい加減にしてくれ勘弁してくれこれ以上僕を苦しめないでくれ!!!!!!
ま・・・・・・ったく・・・・っ、人の気も知らないで・・・・・・・・・っ!!!!!!
くらり、と、視界が揺らぐ頭に血が上るこめかみが熱くなる怒りが僕を支配する。
「何でそんなだらしのない格好をしてる!ちゃんと服を着ろ!いくら家の中で家族しか居ないからってそんな格好でふらふらするなっ!!!」
ドンッ、と、壁を叩いて大声で怒鳴りつけて。
「あ・・・・・・アル・・・」
小柄な兄さんがいっそう小さく見える。呆然とした顔びっくりした顔。顔色を失い・・・・・泣きそうな・・・・・・顔。
「ごめ・・・・・・・・・ん。ごめん、アル・・・・・・」
震えた声。ゆっくりと後ずさってから僕に背を向け、逃げ出すように走って行く・・・・・・。
感情に任せて兄さんを怒鳴りつけて・・・・・・そんな自分に、僕は驚いて呆然として。
けれど兄さんの足音に我に返る。あわてて、兄さんの後を追いかけた。
僕は自分の感情でいっぱいいっぱいになって余裕がなくて。何も怒鳴ることなんかなかったあんな言い方することなんてなかった。落ち着いて静かに窘めれば良いだけのことだったのに。
あんな顔、させてしまうなんて・・・・・・・・・。
「兄さん、怒鳴ったりしてごめん。キツい言い方してごめん。もう、怒ってないから・・・・・・ね、ドアを開けて」
なのに返ってきた返事はみっともないからとかアルは悪くないからとか。鍵のかかった扉は硬く閉ざされたまま僕を受け入れてはくれない。
「兄さん・・・・・・」
泣かないで。このドアを開けて。ねぇ・・・・・・お願いだから・・・・・・・・・。
夕飯の時間になっても兄さんは食堂に降りて来ず、僕は食事を載せたトレイを兄さんの部屋の扉の脇に置いた。
少しでもいいからお願いだから食べて欲しいと静かな声で祈るように言って、僕は自室に引き上げる。
ねえ、明日には元気な顔を見せて僕に笑いかけていつものように。
ねぇ、兄さん・・・・・・お願いだから・・・・・・・・・。
夢の中で。
僕は兄さんに口付けた。柔らかくて甘くて、熱い・・・・・・・兄さんの唇。
たっぷりと貪ってそっと離れる兄さんの唇が僕の名を紡ぐ。
夢の中で、兄さんが僕の性器を舐める子猫のようにチロチロと舐めてゆっくりと銜える。
迎え入れられた口内は狭くて濡れて暖かくて・・・・・・気持ちが、良い。
あぁ、なんて快感。
なんてリアルな、快感・・・・・・。
リアル・・・・・な・・・・・・・・・・・・・・・・っつーかリアルすぎるだろっっ!?
僕は一気に覚醒し、慌てて跳ね起きる。
目に飛び込んだ兄さんの顔。僕のムスコを銜えて苦しそうに眉根を寄せて!!!!
ぎゅぎゅぎゅーんーーーーーっっっ!!
「んぎっっ!んぐぐぎゃっ!くはっかはっかはっかはっっっ!!」
「っっっ!!!んぎゃぁっっっ!はっ!歯っっっ!!か、か、かっ、噛むな・・・・・・・・・っっ」
あまりの光景あまりのシチュエーションに、兄さんの口の中でムスコは膨れ上がり跳ね上がり伸び上がり、兄さんの咽喉に勢いよく突きを入れ・・・・・・・・・。
驚いた兄さんは、咄嗟のことに・・・・・・・・・歯を・・・・・・・・・・・・・。
「かはっけほっけほっけほっ」
ベッドの上で。兄さんは苦しそうに咳き込んでいる。
「・・・・・くっ・・・・・・・・・・・・うぅぅぅううぅう」
同じベッドの上で・・・・・・僕は股間を押さえて蹲っている。
ひくひくと痙攣しながら。
はーっはーっはーっ・・・・・・!
だ、大丈夫かアルフォンスJr・・・・・・?無事か?生きてるか・・・・・・・・・?
ズキズキとヒリヒリと痛みを訴えるそこを恐る恐る確かめる。
出血こそしていないものの、痛々しい歯型がくっきりとムスコに喰い込んで・・・・・・・・・。
「けほっけほっ・・・・・・ひ、酷い・・・・・・・・・アルのデカチンっ」
咳込んで眼に涙を浮かべて兄さんが僕に抗議する。
酷いって・・・・・・僕だって相当酷い目に遭っているだろう。いや・・・・・・でも、今はそれよりも重要なことが。
「な・・・・・・何、してたのさ・・・・・・・・・兄さん?」
僕は今まで我慢に我慢と我慢を重ねて。
「何って・・・・・・だから・・・」
兄さんは俯いて、らしくない細い震えた声で。
「・・・・・・身体取戻してから、お前・・・・・・前みたいに触ってくれなく・・・なって。でも俺、アルのこと好きで、触って欲しく・・・・・・・て」
今、なんて言った・・・・・・?好き?僕を・・・・・・・・・?
「なんとか・・・・・・お前をその気にさせたくって、いろいろ・・・研究して・・・・・・・・・」
じゃぁ何か?アレは天然なんかじゃなくて、僕を誘惑してたってことか?
指を銜えてヨダレを堪えてウロウロと遠巻きに見ていたご馳走が実は据え膳だったということか!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今までともに歩んできた忍耐が勢いよくドブ川を流れてゆく・・・・・・。
てことは何か?今までの僕の苦労はするだけ無駄だったということか?
眩暈がする力が抜ける。ガックリと両手を着くその手の甲を力無い目でじっと見る。
・・・・・・・・・・・・・・なんてこったい・・・・・・・。
「だけどお前のこと怒らせちまったし・・・・・・でも触って欲しくてうずうずするし。こんなんじゃもう一緒に居られないから出て行くしかない・・・・・・・・・って思って、せめて一回だけでいいからお前の・・・挿れて欲しくて。だから・・・・・・・・寝てる間に勃たせて乗っかろうと・・・・・・・・・・・」
終わりのほうは小さな声でごにょごにょと。そしてごめんと言ってベッドから立ち上がろうとする。
僕はその手首を掴んで止める。
「待て待て兄さん。いいから。出て行く必要ないから」
引き寄せて座らせてまっすぐに僕のほうを向かせて。
「僕だって好きだよ兄さんのこと。触りたいし抱きたいしキスしたいし」
でもそれをずっと必死で堪えてた。
だって思わないだろう?同じ母さんから生まれてきた血のつながった兄さんが弟である僕を誘惑しているだなんて。
もしも僕らがまったくの他人で兄さんが女の子だったら『あのこは僕に気があるのかもしれない』なんて思ってこちらからアプローチだってするだろう。躊躇い無く次のステップに進むだろう。
でも、僕らは両親を同じくする兄弟だ。
「言ってくれればよかったのに」
「い、言えるかそんな・・・・・・恥ずかしい」
兄さんが・・・・・・頬を赤くして視線をそらす・・・・・・・・・。
恥ずかしい・・・・・・だ?
すっぱだかにYシャツ一枚・・・しかも乳首で布が浮き上がっていたのは恥ずかしくないのか?
人の寝込みを襲って跨って入れちゃおうってのは恥ずかしくないのか?
兄さんの‘恥ずかしい’の基準はいったいどこにあるんだ・・・・・・・・・?
まぁ、良い。
兄さんがその気だというなら話は決まりだ。することなんてもう、一つしかないだろう?
「おいで・・・・・・兄さん」
「アル・・・・・・・・・・」
僕の腕の中にすっぽりと、兄さんの小柄な身体が納まる。
深く熱く口付けながらゆっくりと押し倒す。
「・・・・・・ぅん」
喘いで上下する薄い胸。触れて欲しいとおねだりするかのような赤く色づき立ち上がった可愛らしい乳首。
舌先で転がすと兄さんの背が仰け反る。甘い声が上がる。
「あ・・・・・・ぁん・・・・・・・・・・アルぅ」
その声に、ムスコが反応を示す。
ああ、今までずいぶん苦労したなよく我慢したな、アルフォンスJr。
僕らの苦労もこれで報われるんだな、もう存分に暴れたって良いんだぞムスコよ・・・・・・!
ズッキーーーーーーン!ズキズキズキズキ・・・・・・・・・
「痛っーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
堪らず、僕は撃沈する。
「・・・・・・アル・・・・・・?」
不審そうに兄さんが身を起こす。僕の顔を覗き込む。
ズキズキズキズキズキズキ
「さ・・・・・・さっき兄さんに噛まれたトコ・・・・・・・」
「えぇっっ!!わわっ!か、かわいそう!!」
驚いて兄さんがソコを覗き込む。
「わぁん!ごめんなアルぅ!!」
「イたたた!さっっ、さすらないで兄さんっ・・・・・・!!」
脂汗が額に浮く。
くそう!こんな時にっっっっ!!!!!
でも無理!今日のところはとても無理っっ!
「な、舐めれば治るかなぁ・・・・・」
えぐえぐと半ベソをかきながら兄さんが呟く。
「いいいいいっ!それは今はノーサンキューっ!な、治ってからたっぷりしてくれっ!!」
「治す為に舐めるのに治ってからじゃ意味ないーっ!!」
このままでは恐ろしいことになりそうなので、僕は目の前の人間兵器をぎゅっと抱きしめる丸め込む。
「こうやってぎゅってしたまま寝るんじゃいや?これじゃぁ不満?」
「・・・・・・・・・やじゃない」
腕の中ですっかりおとなしくなって、なんだかかえってコイビト同志っぽいなどと人間兵器が嬉しそうに頬を赤らめる。
「愛してるよ、兄さん」
「アル・・・・・・俺も」
そして兄さんは僕の腕の中ですやすやと幸せそうな顔で眠っている。
人の気も知らないで。
わざとなのか無意識なのかこれも一種の寝相なのか・・・・・・僕のムスコを両手で握りこんで。
まぁアレだ。すべては傷が癒えてからだ。
そのとき僕は反撃の狼煙を上げ、これまでの苦労と今日の無念のおとしまえをキッチリ付けさせてもらうさ。
覚悟しとけよ・・・・・・可愛い兄さん。
END