『 カーテンの向こうの現在進行形 』
「愛してる」
訳のわからなくなっている頭に何度も何度もくりかえしそう囁かれ、俺を取り巻く世界中が、その言葉で埋め尽くされているような気持ちになる。
何も考えられなくなる何もわからなくなるこの腕の中にいると、何もかもわからなくなる。
解らないのに幸せな気がして満たされる。足りないものなんて何一つないみたいに何もかもが満たされる。
まるでこの腕の中が世界のすべてであるみたいに。
「愛してるよ」
どろどろにとかされた心は身体は操り人形みたいにアルを抱きしめ、唇は自然に動いて同じ言葉を主に返す。
「あいしてる・・・・・・・・」
うっとりと幸せそうに、俺を包み込むこのあたたかな世界の王様が、笑った。
イケナイと思うのに、嫌じゃないのはなぜなんだろう・・・・・・・・・・・・・?
男同士なのに。兄弟なのに。
穏やかに官能的に肌を這う熱い掌も指先も、この身体中、埋め尽くすように口付けてゆく唇も艶かしく動き回る舌先も。
イケナイコトなのに、幸せな気持ちになるのはなぜなんだろう?
「愛してるよ・・・・・・・・あいしてる。兄さん・・・・・・・・」
とろとろに、溶けてゆく。とろとろに。胸の奥のあまい痛みだけが、いまの俺で。
「何度言っても、言い足りないよ。いままで我慢してたぶんを全部言っても、まだ言い足りない」
もう何度目かもわからないキスをされて、重ね合わせたままの唇がまた、あいしてると囁いて。
抱きしめられた幸せな腕の中で、全部欲しいと求められて、頷いた。
「嫌じゃない?つらくない・・・・・・?」
いやじゃない・・・・・・・・・あんしんする・・・・・・。
「へい・・・き・・・・・・・・・」
深いところまで満たされて、あんしんする。
どうしていやじゃないんだろう?
どうして初めてのこの身体はこんなにも柔軟にあたりまえみたいに、アルのことを受け入れられるんだろう・・・・・・・・・?
まるでこれが完全な形みたいに・・・・・・・・・・俺たちにはこれが当たり前なことだったみたいに。
どうして・・・・・・・・・・・?
解らない・・・・・・・わからないけどとろとろにとけて。
首に腕を絡めて縋って。
「ん・・・・・・キス・・・・・・・・・・・・」
口付けをねだって。
「うん」
きもちのいい、キスをたくさんねだって。
俺は・・・・・・・・・・・・・・・満たされて・・・・・幸せで・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ところで、大佐」
「・・・・・・・・・何だね」
午後の日差しが今日も変わらず柔らかに差し込む、アメストリス軍中央司令部マスタング大佐執務室。
そこにいるもの全員が醸す何かをあえて避けるかのような沈黙を破る、ホークアイ中尉の凛とした声。
「あれから3日経ちますが、申請用紙を受け取りに来ませんね、アルフォンス君」
かなり急いでいるようでしたのに、と、サラリと。
「・・・・・・・・・・・因みに、あれから1度もカーテンが開いていない・・・・・・・・・いや、あれはきっと鋼の大将が本当に熱かなんか出してっっ!!」
「熱があっても、窓くらいは開けるでしょう。風邪ならなおさら空気の入れ替えもしてあげないと」
壁に向かってぶつぶつと呟いたり打ち払うように声を上げるハボックのいる窓枠に、淹れたてのコーヒーの入ったカップをコトリと置いて、フュリーがさりげなく止めを刺してゆく。
「ハボック、ブレダ。お前たち、この書類をアルフォンス・エルリックに届けて来い」
「んなっっっ!!」
二人同時に振り返る。風を切る勢いで。
「嫌ですよ!!かろうじてファスナー上げただけのジーンズとか適当に羽織っただけのシャツでいかにも邪魔しやがってみたいな顔で出てきたらどうするんすかおっかない!!」
「そういう大佐が行ってください!あんた仮にもヤツラの後見人でしょう!!」
「嫌だ私は絶対に嫌だ!!あの部屋の中で何が起きているかなんて想像するだに恐ろしいっ!絶対絶対嫌だからな!大人の責任なんてクソ食らえだ!!」
カーテンにすがり付いて大きくかぶりを振るマスタングに、大人げの無いとため息をつくホークアイ中尉。
「エドワード君・・・・・・・パンツ穿く暇も無いんでしょうね」
追い討ちをかけるようにフュリーが爆弾を投下してゆく。
誰が猫の首に鈴をつけるのか誰がフェロモン帝王に舌打ちされに赴くのか。
皆が一様に300メートル先のカーテンの向こうに同じ光景を思い浮かべる。
ソレもまた平和な世だと言えるとか言えないとか。
END