『 ふかふかの毛布の中 』
「あったかい」
「ああ、あったかいな」
「兄さんの頬、柔らかい」
「お前だってそうじゃねぇか」
向かい合って座り込んで、お互いの頬を両手で包み込んで。
体温と、肌のやわらかさを確かめ合って。
「あはは、兄さん、あったかい」
アルが、笑っている。
ニコニコと、幸せそうな笑顔で。
取戻した肉体。
思いがけずきちんと成長していて、ちゃんと15歳の少年にふさわしい肉体。
すんなりと伸びた手足。鍛えていないせいで筋肉は落ちているけれど、これはちょっとトレーニングすればすぐに元通りになるだろう。
その長い指が、掌が、ぺたぺたと俺の顔を身体を確かめるように触れてまわって。
「うわぁ、兄さんだ。兄さん」
くすくすと嬉しそうに笑って、俺にぎゅうと抱きついて。
俺も嬉しくて、アルをぎゅうっと抱きしめ返して。
「ばぁか、当たり前だろ。・・・・・・はは、アルだ」
「うん」
温かな身体。体温を持った生身の肉体。
俺の腕と脚は機械鎧のままだけど、すべてが終わるまではまだこのままでもいい。
とにかく今は、無事に取戻したアルフォンスの身体に俺たちは喜んで。
裸同然の格好でベッドの上に座り込んで、笑いあって。
アルが笑っている。
楽しそうに嬉しそうに笑っている。
5年ぶりの、笑顔。
嬉しくて、俺も、とてもとても嬉しくて。
額をくっつけあって、二人で笑って。
くすくすと笑って。
抱きしめあって、笑って。
「ねぇ、髪の毛触ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
俺は髪を縛っていたゴムを外す。
アルの指が差し込まれて、緩んだ三つ編みがするりと解かれる。
「ああ、やっぱりさらさらだ・・・・・・きもちいい、兄さんの髪」
うん、気持ちいい。
何度も何度も指をくぐらせては梳いてゆく、アルの温かな手が気持ちいい。
俺も、アルの髪に指を差し込む。少し硬くて短い髪、気持ちいい。
うれしい、きもちいい。
俺をまっすぐに見て、目を細めて笑うアルの顔が男っぽくて格好良くて、少し悔しいけど、嬉しい。
嬉しい。とてもとても、うれしい。
長い髪を指に巻きつけたアルの指が俺の頬を首筋を撫でてゆく。気持ちいい。
気持ちいいけど、くすぐったくて目を閉じた。
すくめた肩。俺の髪にアルが顔を埋めてかすかに頬が触れる。
くすくすと笑う吐息が肌を撫でて甘くて、胸がきゅうと締め付けられる。
頬擦りするみたいに高い鼻が首筋をくすぐって、俺の心臓がとくんと高く鳴って。
急に。
ドキドキして身体が熱くなって恥ずかしくなって。
とたんに、お互いの吐息を意識してしまって・・・・・・恥ずかしい。
変だ・・・・・・俺。
恥ずかしい。
恥ずかしい、こんな、下着1枚つけただけの格好、アルフォンスに見られて。
なんで・・・・・・どうして。
変だ。変だ俺、今まで何てことなかったのに、今まではまるで平気だったのに。
見られるのが恥ずかしい。アルに見られるのが恥ずかしい。
変だ、俺、アルフォンスの兄貴なのに。
はずかしい。
俺は身体を縮めて、アルの目から隠すみたいに自分をきつく抱きしめた。
隠れてしまいたいのに、そのまますっぽりと抱きしめられて。
「どうしたの?兄さん?」
耳元で、甘い声で訊かれて。
恥ずかしくてたまらなくて声にしたら震えてしまいそうで、ゆるゆると首を振って答えにする。
「耳まで真っ赤になってる・・・・・」
声と一緒にアルの息が耳をくすぐって、身体中を弱い電気みたいなものが走って。
変だ・・・変だ。変で・・・・・・恥ずかしい。
抱きしめられて恥ずかしくて、身体に力が入ってしまうのに溶けてしまいそうで。
恥ずかしい・・・・・・。
「可愛い。可愛いね、兄さん」
囁く唇が耳に触れて、ほんの一瞬、耳たぶに歯を当てられて・・・・・・。
下半身に、熱が、集まる。
反射的に、うつむいていた顔を上げてしまう、意識していなかった涙がこぼれてびっくりする。
かすんだ視界、至近距離で笑うアルの顔。
恥ずかしい。見られてる、恥ずかしくてひどい顔、アルに見られて。
「感じちゃった?」
恥ずかしい・・・恥ずかしい。アルに見られるのが恥ずかしい。
恥ずかしくてたまらないのに、アルフォンスはくすくす笑って。
「感じやすくて、可愛くて・・・・・・どうする?これじゃぁ、この先、兄さんと付き合う女の子より可愛くなっちゃうんじゃないの?」
いらない。女の子となんか付き合わない。彼女なんか、欲しくない。
でも、アルは・・・・?
事あるごとに彼女が欲しいと言っていた。
生身の肉体を取戻して、成長した身体は顔は男っぽくて格好良くて。
「アル・・・・・・お前、彼女・・・つくんの?」
いやだ。
いらないって、言えよ・・・・・・。
「うーん、どうしようかなぁ?」
考えあぐねるみたいに、少し上を向いて。
嫌だ。
やっと・・・・・・やっと取戻せたのに。
「嫌だ・・・・。やっと真理から取戻したのに・・・・・・今度は女の子に・・・お前取られんの?」
嫌だよ・・・・・・嫌だ。
そんなの嫌だ。
アルは俺の顔を見て、悪い男みたいな顔で笑って。
「兄さん・・・・・・そんな可愛いこと言ってると、怖い目に遭うかもよ?」
余裕な顔で、笑って。アルばっかり余裕で悔しくて。
「怖くなんか、ねぇもん」
ふぅん、と笑ってアルは足元のブランケットを引き上げて。
二人で、頭からすっぽりとそれに包まる。
「あとで怖いって言っても、知らないよ?」
月明かりさえも遮断された暗がりの中で兄弟のじゃないキスをされて。
息継ぎの仕方も分らないキスをされて、そのままゆっくり押し倒されて・・・・・・。
アルフォンスの掌が、俺のからだの変化に気付く。
触れられて、甘い息が、うっかりとこぼれる。
「兄さん・・・・・・実はね、僕も・・・」
耳元で低く笑って。
「兄さんが、可愛すぎるからだよ」
アルが、硬くて熱い彼自身を俺のそれに擦り合わせて。
「あ・・・・・・あぁ」
はじめての快感に、それだけで達してしまいそうになって・・・・・・。
でも、足りなくて。
もっともっと、触って欲しくて・・・・・・。
「誰にも、言っちゃダメだよ、兄さん。二人だけの・・・・・・秘密」
ふかふかの毛布の中に隠れて、俺たちは血のつながった兄弟でイケナイことをして。
からだじゅうに口付けられて余すところなく触れられて、生身の身体に戻ったアルの、その灼熱を身体の奥深くに受け止めて・・・・・・。
気持ちよくて、うれしくて・・・・・・。
ふかふかの毛布の中で俺たちは二人、イケナイ快楽に耽って・・・・・・。
気持ちよくて・・・・・・嬉しくて・・・・・・。
END