『青い空に〜』の良くない番外編












 外出から戻り扉を開けた宿の一室。
 一人で部屋に残っていたアルが俺の顔を見て微笑み、見覚えのない小さな香炉に火を点した。

 ゆらり、と、立ち上る甘い香り。
「なんだ、このにおい?」
「いい香りでしょ?こういうのも練成出来るかな、って試してみたんだ」

 窓から差し込む夕陽。くぐもったオレンジに染まる、薄暗い室内。
 整った顔立ちに翳が差して、怪しいくらい綺麗に笑う弟。
 その男くさい色気に中てられたようにドキドキする。
 気持ちを落ち着かせようと、深く息を吸う。

 鼻腔を抜けて、胸いっぱいに広がる、甘い甘い香。

「え……なにこれ………?」
 深呼吸をしてドキドキが収まるどころか、痺れるような疼きが奥に生まれて身体に力が入らない。
 床にへたり込んで、助けを求め見上げた弟の顔には獰猛にさえも見える色香が浮かんでいる。
「効いてきたみたいだね、兄さん」
 滴るような微笑みで長い指が俺の頬をなでる。
 身体が、甘く疼いて……。
「思いっきり吸い込んだよね……媚薬。これだけでも感じちゃうでしょ?」
 唇がわずかに触れる位置で囁かれ、その意地悪な言葉通りに感じてしまって……。

 抱き上げられ、ベッドの上におろされる。
 乾いた指が何度も俺のくちびるを撫でて、そのたびに俺の身体はたまらなく疼いて。
「ね……我慢しないで、‘欲しい’って言って」

 深く、唇が重なる。弾力のある舌に口腔を探られて何も考えられなくなりそうになって。
 でも、これではいけないと、息継ぎの合間に頭を振る。
「ダメだ……駄目だアル………っ」
 快楽に流されそうな自分を叱咤する。
 なんとか気を散らさないと………。
「い……っ…いち、に、さん…し……っ」
「兄さん、そのネタはとっくに使用済みだ」
 いい加減諦めなよと、弟が覆いかぶさってくる。
「それよりもさ………僕にも効いてきちゃったみたい」
 くすくすと笑う弟の腹筋が揺れるのにすら感じてしまいながらもいやな予感に、聞き流せない。
「ななな何がっ」
「媚薬」
 ほら、と笑いながら下半身を擦り付ける。
「いっっいきり立ったモン押し付けんなバカっ!」
「何をいまさら。兄さんだっておそろいじゃない」
 こんなになっちゃってるくせに、と大きな手で布越しに握りこまれて。
「あひゃ……ん。ってだめだだめだだめだ放せアルっ!」
「無理。僕がもう我慢できないし………ね、もう観念しろよ、兄さん」

 なし崩しに流されそうな己の身体になけなしの理性を総動員して、その腕からの脱出を試みる。
 もう、本当に強情なんだから、とつぶやいてアルの指先が俺の先端をいやらしく撫でて……。
「んきゃーーーーーぅ」
 口から出たのは色気もへったくれもない悲鳴。

「そんな色気のないところも愛してる」


 暴れてももがいてもピクリともしない強かな腕にがっちりと捕らえられて、気分は捕食される(小)動物。










END