『それが用意された未来であるなら』
青い服を着た子供が駆け寄ってきて、目の前で立ち止まった。
年の頃は14〜15歳。
落ち着いた色の金の髪、光を蓄えた琥珀のような金色の瞳。
「こんにちは、大佐。兄さんを見かけませんでしたか?」
利発そうな顔が私を見上げて笑みを浮かべる。
驚きのあまり反応が遅れてしまう。
悪戯が成功した子供の顔で、彼が笑う。
「君は・・・・・・アルフォンス・エルリック・・・か?」
「驚いたでしょう?」
「ああ・・・・・・。そうか、君は、そんな顔をしていたんだな」
「兄さんとはあまり似ていないって、よく言われていましたよ」
今まさに心の中で思ったことを言い当てられて、私は咳払いでごまかした。
確かに、彼の顔立ちは兄とはあまり似ていない。
人好きのする穏やかな顔立ちからは、あの敏捷且つ鋭い身のこなしや国家資格を持つ彼の兄に引けをとらない高度な錬金術を扱う様などはまるきり窺うことが出来ない。
その分、末恐ろしいともいえるだろう。
そんなことを考えていたら、アルフォンスが何かに気付いて視線をそちらに向ける。
「あ、兄さんだ!」
視線の先には見知った顔。金色の三つ編み、真っ赤なコート。
大きく、笑って。
「兄さーん!」
手を振って軽やかに駆け出す。
思い切りよく地面を蹴って彼の体が宙に浮いて。
小柄な彼の兄に、力いっぱい跳びついてゆく。
「わわっ、アル!何だよ、急に飛びついたらビックリするだろ!」
「あははは。だって、鎧の体のころには出来なかったもん」
受け止め損ねて二人はゴロゴロと転がって、笑っている。
「それはそうだけどよ、重いって、アル!」
悪態をつきながらも、鋼の錬金術師は嬉しそうにニコニコと笑って。
二人で、転げまわって笑って。
(仔犬が子猫にじゃれ付いている・・・・・・)
その様はあまりに幸せそうで、見ている私までつい口元が緩んでしまう。
よく視れば彼の右手もまた冷たく光る鋼ではなく、その子供らしいラインを残す頬と同じ血の通った肌色だ。
「そうか、彼らは・・・・・・元に戻れたのだな」
「そのようですね、やっと」
私の右側から副官の、かすかに笑みを含んだ穏やかな声が聞こえる。
そして左肩がふわりと煙る。漂うのは嗅ぎ慣れたタバコの匂い。
「あーあ。天才錬金術師兄弟も、ああやってるとフツーのガキっすね」
愉快そうに、部下が笑って・・・・・・。
「と、いう夢を見ていた」
「へぇ、あの兄弟がね・・・・・・。どんなでした?生身のアルフォンスは?」
「ああ、普通の子供だった。鋼のよりは大きかったぞ、身長」
「やっぱりね。俺も見たいな。・・・・・・早くそうなるといいっすね」
「そうだな」
本当に、その通りだな。
本当に、予知夢であって欲しいよ。
アイスブルーの瞳が細められる。遠くを懐かしむような、ハボックの笑顔。
その夢の中でお前はいつものようにタバコをふかしていつものように私のことを斜め上から見下ろして。
その両足で、しっかりと大地を踏みしめていたのだと・・・・・・言いかけて、やめた。
その夢が、私たちに用意された未来であるなら。
否、たとえそうでなくてもきっと、その脚を治すすべを見つけてやる。
取戻してやるさ。
だから、お前がその両足で立ち上がって私の元まで歩いてきたら、その時には聞かせてやろう。
軽く、笑い話でもするように。
END