今は旅の途中。
賢者の石についての手がかりを求める終わりの見えない旅の途中。
汽車がこの小さな町の質素な駅に滑り込んだのは、もうすっかり日も暮れてから。
同じく質素なこの宿に、部屋を取った頃には食堂も終わってしまっていて、宿の主から場所を教えてもらった遅くまで開いているというデリへ行き、兄さんの夕食を調達し戻ってきた。
僕が買い物に行っている間に、入浴を勧めておいた兄さんは湯上りのホコホコで、実にテキトーにタオルを巻き込んだ長い髪は、毛先がはみ出てポタポタと雫をたらしている。
「ああもう、髪から雫が垂れてるじゃない。なんでちゃんと拭かないかなあ」
そんなふうにいつものようにお小言を言いはするものの、内心では役得とばかり兄さんの長い髪をタオルで拭う。
手触りが判ればいいのにその髪のにおいが判ればいいのに。
この鎧の身体じゃ、触覚も嗅覚も解りはしないから。
そんな僕の心のうちも知らずに、兄さんはデリの紙袋から夕食を次から次へと取り出して並べる。
「おーーー美味そう!」
「いい匂い〜♪」
にぎやかに笑って、食卓に着く。
髪の水気を粗方拭った僕はいつものように向かいに座って、夕食をほお張る兄さんを眺めている。
食べながら時々僕に話を振ってくる兄さんに、相槌をうって。
先の見えない長い永い旅の途中の、それはやさしくていとしい時間。
目を覚ましたら、兄さんはなんて言うだろう。
僕は、何を言えばいいだろう。
ドキドキと、ハラハラとしながら僕は窓の外の小鳥のさえずりをBGMに思考の渦の中へ浸かりこむ。
昨夜初めて、愛する人と結ばれた。
ずっとずっと好きで諦めようとしても諦めきれずに、諦めることを諦めて久しい、血のつながった兄さんと。
兄さんはずっと、当然のことながら『兄弟だから』と拒み続けていたのだけれど、ようやく根負けしてくれて僕を恋人にしてくれて。
嬉しくて、いとしくて、感激して感動して。
羽目を外して、歯止めなんか利かなくなって。
ちょっと……しつこすぎたかもしれない。
恥ずかしがる姿がかわいらしくて堪らなく興奮して、いやいやと頭を振るのがもっと見たくて強引に……。
怒ってるかな、嫌われちゃうかな。
次は兄さんがしてほしいことばっかりするから、どうか怒らないで許して。
早く目を覚ましてほしいような、まだもう少し眠っていてほしいような。
疲れ果てて寝ているその顔もかわいいなんて、そんなことをグルグルと。
鳥のさえずりを聞きながらベッドの中、僕はいつまでも考える。
「おい、アルフォンス。塩取ってくれ、塩」
「だめだよ父さん、塩分の取りすぎは体に良くない。何のために薄味にしてると思ってるのさ?」
せっかく当たり前の身体になれたんだから、父さんも、僕も。
病気だってするし、怪我だってする。
「今までみたいにはいかないんだからね、お互い」
「うぅ〜〜」
「アル?~目玉焼き、焦げてる」
「文句があるなら自分で焼け、兄さん」
「え〜〜〜〜」
同じ表情で拗ねるなよあんたたち。
まったく親子でそっくりなんだから。
こんなとき母さんなら・・・・・・・・・・・。
きっと笑いながらいさめるんだろうな。
たぶん同じ台詞をもっと余裕な顔で言うんだろうな。
今、僕らには、母さんだけが足りなくて。
「それにしても、アルフォンスはでかくなったなあ」
「‘は’って何だよ!オレだって大きくなっただろうがよ親父っ!」
「ああ・・・・・・・・・そうだなぁ、ちょっとはエドワードも大きくなったなぁ」
「今っ!今‘ちょっと’って言ったろ!!聞こえたぞ!!」
「ははははは」
笑った顔しか思い出せない、母さんの面影を尊敬の念と共に胸にしまう。
「とりあえず二人とも、食事中は本を放す!」
負けじと声を張り上げなければならない僕は、やっぱり母さんにはかなわない。
得てして錬金術書というものは、一見してそれとは解らないように書かれている。
兄さんのは旅行記風、Drマルコーは料理全集、マスタング大佐は女性の名前。
そして今日、僕が古書店で見つけて買ってきたこれは・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・ななななんだ、これっ!?」
パラリとページをめくった兄さんが、火を噴きそうなほど顔を赤くして慌てて本を閉じる。
「官能小説・・・・・・・風に書かれた‘錬金術書’」
「なんで!?どんなわけがあって官能小説っっ!?」
「さあ、書いた人の趣味じゃない?」
ドアの隙間から部屋をのぞき見る子猫のような仕草で、兄さんはびくびくと遠巻きに本を見ている。
読まないの?と促すと、兄さんが赤い顔のまま眉をハの字に寄せる。
「なかなか興味深かったよ」
「えっっえええエッチっっ!」
「錬金術」
ハッとした顔で大慌ての兄さんが面白くてやたら可愛い。
「読まないなら、説明してあげようか?」
「お、おう」
安堵したような顔で兄さんが僕を見上げる。
「実技で」
「実技っ!?」
「これに書いてあるとおり一言一句違えず漏らさず。ちょっとでも間違えると、全然別のものになっちゃうからねぇ、錬金術」
「ちょちょちょちょっと待てアルっっ!!どこ触って・・・・・あ、ぁ・・・・ぅん」
「ちゃんと、身体に教えてあげるから。1巻の第1章から」
「あ・・・・ぁ、い、1巻って・・・・・・っ」
「全部、教えてあげるから」
全7巻だったというありがちなオチ
「アル・・・・・・・」
眠る貴方の唇からこぼれた、僕の名前。
その響きがとても柔らかくて優しくて。
嬉しくて、胸の中が温かく満たされる。
ねえ、貴方は気の迷いだなんていうけど
貴方の言葉一つで僕は
天にも昇るし奈落にも沈む。
他の誰よりも貴方が一番きれいに映る。
ねえ、これって『恋』って呼ぶものじゃないの?
ねえ、兄さん。
長逗留しているホテルの床一面に本の山を作って、その真ん中から兄さんが僕に手招きをする。
「で、何。兄さん?」
「いいからホラ、ここに座れよ」
胡坐掻いてさ、と、本の山が不自然にぽっかりと開いた隙間を指差して。
なんだろうかと首を傾げつつ言われたとおりに座る僕の膝に、兄さんがコロンと転がり引っかかる。
「枕代わり?それとも鎧がひやっこくて気持ちいいとか?」
ん〜、と、手にした本から目を離さずに。
「どっちも・・・・・・・かな?」
体勢が楽だしひんやりして気持ちいいし、何よりお前の膝だしと。
「そんなオレのこともイトシイくせに」
にししと笑うふくふくした頬を指でつついて、
僕はただ一言、
「まあね」
と、答えた。
「だってオレ、誰にでも優しくする気なんてねーもん」
なんであんなキツイこと言ったの初対面の女の子に、と問いただす僕から目をそらして、ぷぅと頬を膨らませた兄さんが言う。
「ボク達のことは凄く大事にしてくれるのに?」
ため息混じりに呟くと、兄さんが怒ったような顔をする。
「誰も彼も、同じように大事なわけじゃねーもん」
だからって知らない誰かがどうなってもいいって訳じゃないけどと、もごもごと小さな声。
オレは自分にとって大事なヤツだけで精一杯だから、と俯くその小さな頭を上から覗く。
何の感触も伝えないボクの鎧の指をぎゅっと握る、兄さんの左手が、見えた。
猫みたいだな、と、いつもながらにそう思う。
金の毛並みの、高慢な猫。
外ではツンと澄ました顔で他人を挑発するくせに、二人きりの部屋ではまるで別人みたいに甘い声でボクを呼んで。
起きていても、眠っていても。
背中だったり手のひらだったり膝頭だったり。体の一部がどこかしら必ずボクに触れている。
ねえ、兄さん。
猫好きだから、ボクは兄さんに心が惹かれるのかな?
それとも兄さんが好きだから、猫を見てかわいいって思わずにいられないのかな。
ねえ・・・・・・・・・兄さん?
「ねえ、エドワード。お願いがあるのよ」
柔らかな栗色の髪。
「お父さんは必ず帰ってくるから、きっと帰ってくるから、怒ってばかりいないで仲良くしてあげてね。あの人、寂しいのよ」
ずっとずっと、寂しい思いをしていたのよ、と、夢の中で、困ったような顔で母さんが笑った。
「こんにちは、兄さん来ていませ・・・・・っんんなっっ!?」
マスタング大佐の執務室の扉を開けた僕は、室内で起こっていたそのあまりにも予想外な光景に凍りついた。
ホークアイ中尉の胸にがっつりと、兄さんが顔をうずめている。
「やあ、アルフォンス・エルリック」
物言いたげに目を据わらせて、大佐が僕に声をかける。
「鋼の大将なら、中尉の乳間で爆睡中だ。くそぅ、ガキの特権使いまくりやがって」
ハボック少尉はかなり本気で悔しそうだ。
「・・・・・・・・・良く頭打ち抜かれずに・・・・・ってまさか」
顔を埋めたままピクリとも動かない兄さんに沸き起こる不安。
「いやいやいや、撃ってない。撃たれてはいない」
「だから子どもの特権だと言っとるだろう」
「なら、乳にはさまれて窒息・・・・・・」
「まぁ、ソレはあるかも知れんな」
「・・・・・・・・・あなたたち」
冷ややかに目を据わらせた中尉が僕らを向く。その手元でガキリと硬い音がする。
「安全装置をはずすのは、やめたまえ中尉」
書類の山の陰に半分隠れるようにして、大佐が制止の声をかける。
「それにしても・・・・・・だな」
ブレダ少尉が重々しく口を開く。
「16歳にもなろうという青少年が、乳間で健やかな寝息立てて爆睡ってどうなんだ」
どこがとは言わないが充血しちゃって眠るどころじゃないだろう普通は、と。
「二次性徴が遅れてんのかねぇ・・・・・・」
銜えタバコの腕組みで、ハボック少尉が呟く。
「それは・・・・・・・・・うちの兄さんが可愛い(小さい)っていうことですか?」
「まぁ、そんなとこ(小さい)だな」
目を据わらせたままの中尉の乳間で、兄さんは身じろぎをしたけれども寝息は相変わらず聞こえている。
マスタング大佐の執務室は、今日も平和・・・・・・・・・なのかな。
「兄さん、何、その棒?」
「耳が痒いって言ったらリンがくれた。なんでも、耳の掃除をする道具だそうだ」
「へぇ・・・・・・東の国にはそんなものが」
「でも耳の掃除ったってよー、自分じゃ見えねぇし」
「じゃぁ、僕がやってあげるよ」
「おー、頼むわ」
こりこりこり
「んぅ、なんか、キモチイーかも・・・・・・」
「・・・・・・・・・どんどん出てくる」
こりこりこりこり
「知らなかった・・・・・・‘耳掃除’がこんな・・・・・・」
「大物発見・・・・・・兄さん、動かないで」
こりこりこりこりこり
「え・・・アル・・・・・・そ、そんな奥のほう・・・・・」
「痛くしないから、じっとして」
こりこりこりこりこりこり
「んっ・・・・・んぅぅ〜〜〜〜っ」
「動いちゃだめだよ・・・・・・もう少し、もう少しだから」
こりこりこりこりこりこりこり
「きゃぅ〜〜〜ぅぅん」
「・・・・・・取れた・・・・・・・・・!なんかこれ、すごい達成感!!癖になりそう!さ、反対側も!!・・・・・・ってあれ?どうしたの兄さん、そんなグダグダの猫みたいになって?」
「反対側って・・・・・・これ以上やられたらイッちゃう、俺」
「ねえ兄さん、僕らがまだ小さな子どもだった頃・・・・・母さんが死んでまだ1年も経ってなかったかな、村中で酷い風邪が流行ったの覚えてる?」
「ワリィ、あんまし覚えてねぇや」
「ううん。本当に僕ら、子どもだったし」
「ああ」
「でね、ばっちゃんも、ロックベルのおじさんもおばさんも村中を回って忙しくって遅くなって、乗り合いの馬車も出なくて。そんな日に限って、兄さんもその流行風邪をひき込んじゃったんだ」
「うわ、俺タイミング悪っ!苦労かけたな、アル」
「いいんだよ、そんなこと」
「さんきゅ、な」
「まだその頃は、ウィンリィも子どもだったし、薬を勝手に出しちゃダメだって言われてたし薬戸棚に鍵はかかってたし第一、薬はみんな、ばっちゃんたちが持って出ちゃってたし。二人して困り果ててさ、ウィンリィの持ってきた医学書やら何やら片っ端から読みまくって」
「なんか良い方法載ってたのか?」
「民間療法の本に・・・・・・・・・長ネギを5センチくらいに切ってお尻に差し込むと、どんなに高い熱で下がるって書いてあって・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・ネギ・・・・・・・・・」
「大急ぎで畑からネギを引っこ抜いてきて、ちょうど良い長さに切って」
「やったのか・・・・・・」
「いざ、って時になって、ウィンリィが‘あんたがやりなさい’って言い残して帰っちゃって・・・・・・・・・高熱で唸ってる兄さんを楽にしてあげることしか考えてなかった」
「アル・・・・・・」
「で、四苦八苦しながらそのネギを兄さんのお尻に差し込んだんだけど」
「・・・・・・なんかもう、どう相槌を打っていいんだかわかんねーよ」
「兄さんのお尻からネギが出てるのを見て・・・・・・なんだか、目が離せなくて」
「パンツ履かせてやれよ」
「だって、時々動くんだよ?兄さんが身じろぎする度に、ちょっとだけ中に吸い込まれていったり、左右に振れたり。そうこうしている間に、朝になって」
「おいおいおい」
「結局熱は下がらなくて」
「それは・・・・・・・ケツ出しっぱなしだったからじゃねぇのか?」
「昼前くらいに、ばっちゃんたちが帰ってきて、注射打ってもらって。それでも熱が下がらなかったらコレを使えって、座薬を出してくれて」
「・・・・・・まだ、ケツから離れらんねーのか・・・・・・・・・」
「で、座薬を使ったわけだけど」
「うぅ」
「できるだけ奥まで、って言われてたから指の付け根まで入れたんだ。そうしたら、兄さんが僕の指をね、きゅって、締め付けて・・・・・・・紅い顔で、荒く息をして」
「熱があったからじゃねーの?」
「なんかもう、そんな兄さん見てたら堪らなくなって、右手の指、兄さんのお尻に入れたまま、左手で擦っちゃった♪えへへ、それが僕のはじめての精通♪」
「おい」
「白いの、兄さんにもかかっちゃった♪」
「おいおいおいおいおい!!」
「おい、アル・・・・・・・・・」
「目が覚めたの、兄さん?」
「なんで俺はまたハダカで首に鈴つけてんだ?もう騙されねぇからな」
「何言ってんだよ兄さん。今日は2月22日なんだよ!!」
「だからそれが何だってんだ!?」
「‘にゃんにゃんにゃん’で、猫の日なんだよ!猫兄さんを猫かわいがりしないわけにいかないじゃないか!」
「どういう理屈だよ!?」
「今回は特別に、猫耳もつけてみました」
「んなっ!?あぁぁっっ!猫耳カチューシャが!?くそぅ、道理でさっきから頭痛が酷いとっっ!!」
「可愛い可愛い♪すごくよく似合ってる♪」
「大体この首輪!?首元で鈴がチリチリ鳴ってうるさ・・・・・・・なんで2箇所から音が聞こえる・・・・・・・・・?」
「鈴、増量中♪四つんばいのニャンコのポーズをとると、後ろから鈴が揺れるのがよく見えてサイコーに可愛い〜〜♪」
「なっわわっっ!?こらアルっっ!なんでこんなタマ裏にっっ!!」
「あぁもう可愛い〜〜〜〜♪」
「兄さん!」
「おぅ、何だ、アル?」
「早く!脱いで脱いで!!」
「えっっ!?わわわっなっ何だよこんな真昼間からっっ!!」
「何って、サービスに決まってんでしょ。詩屋が更新遅れまくりで焦ってるからせめて僕らが覗いてくれた皆さんのお相手しないと。だからほら、早く!!」
「って、ヤツは絵描きじゃないんだから俺が脱いだところでなんのサービスになるってんだよ!」
「大丈夫だ兄さん。そこは僕が、皆さんによーーーーく分かるように事細かに説明するから」
「説明って何をだよ!」
「兄さんの乳首やナニの色から、触られてどんな風に反応してるのかまで、僕が、逐一、明確にっっ!!」
「いやだぁっ!そんなのいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」(絶叫)
「すまないね、アルフォンス・エルリック」
どうにもあの施設は国家錬金術師と軍の一部の上層部しか入館許可が下りなくて、と、まったく連中は頭が固いの融通が利かないのと眉根を寄せて大佐が語る。
「いいえ、そういう決まりなら仕方が無いですよ。掛け合ってくれたんでしょう、大佐?ありがとうございます」
「いや・・・・・・別に私は・・・・・・・・・」
視線をそらして何も特別なことをしたわけではとごにょごにょと小さく言い訳をするさまはまったく、照れ隠しをしているときの兄さんと似ていて面白い。
ほら、そのぶすっくれた顔といい。
「あはは。僕も国家資格取れば話は早いんですけどね」
「確かに、君の腕前なら資格を取るのはたやすいとは思うが。だが、鋼のが嫌がるだろう?」
やたらと確信に満ちた口ぶりで今度は僕を真っ直ぐに見据えて。
いやむしろ絶対反対する筈だ、そうだろう?と僕を睨むみたいに。
「そうなんですよ。良くわかりますね?」
そう応えればやっぱりなそうだろう?とスズメを銜えた猫みたいに得意満面に。
ところでずっと気になっていたことがある。
丁度兄さんも居ないことだし訊くなら今なのだろうと思う。
「大佐」
「なんだね、アルフォンス・エルリック?」
「どうして・・・・・・大佐は僕のことをいつもフルネームで呼ぶんですか?」
うっ、と、息を詰めたような顔をして。
「それは・・・・・・アレだ。君たちは兄弟だからエルリックでは呼びわけが出来ないし、君をファーストネームで呼ぶと鋼のが半端でなく怒るし・・・・・・」
あぁ、それは兄さんのヤキモチだ。まったく仕方が無いなぁ兄さんは。でもそんなところも可愛いんだけど。
・・・・・・・・・っていやいやそうじゃなくて。
「で、大佐はどうして兄さんのことをファーストネームでもフルネームでもなく‘鋼の’と屋号みたいに呼ぶんでしょう?」
「そ、それは・・・・・・か、彼の二つ名が‘鋼の錬金術師’だからだ。決まっているだろう?」
ははは、と乾いた笑い。あからさまに挙動不審。
「もしかして大佐・・・・・・兄さんの名前、覚えていらっしゃらない、とか?」
「ばっ、ばかなそんなことはあるわけないだろうっっ?」
青くなってうろたえて。
「なら・・・・・・言ってみて下さい、兄さんの名前」
ゴクリと音がするほど息を呑んで。
「エ・・・・・・・・・・エ・・・エエ、エドワロルド・エルリック・・・・・・?」
「・・・・・・・・・ビミョウに惜しい気もするけど、全然違いますよ。大佐」
ぷっ・・・・・・と、ホークアイ中尉がちいさく噴き出しハボック少尉が額に手を当てる。
当の大佐はなんとも情けない顔をして彼の部下にキョロキョロと目で縋って。
うららかな午後の陽が差し込む中央司令部ロイ・マスタング大佐執務室。
大佐をイジることにかけては第一人者の中尉が‘ね、楽しいでしょう?’と、目で笑った。
あなたに繋がるどんな小さな手がかりでも良いからそれがたとえ欠片でもいいからと、僕はこの国中を探して回って。
僕の知らない・・・・・・いや、僕がなくしてしまった4年の間のあなたを知る人の、どんな些細な思い出話でも良いからと欲しがってたずねて回って集めて回って。
やっと・・・・・・鍵のありかを知ることが出来た。
もうすぐだよ兄さん。
僕は必ずその鍵を手に入れるから。あなたへと繋がる扉を開く、その鍵を必ず僕は手に入れるから。
必ずあなたを迎えにいくから。
もうすぐだよ。
もうすぐだよ。
・・・・・・もうすぐだよ、兄さん。
もうすぐあなたを迎えに行くよ・・・・・・・・・。
「あはは♪兄さん最近、乳首大きくなってきたよね♪」
「ばっ・・・!!お前が弄り過ぎるからだろ!!」
「兄さんの乳首が‘触って触って’っておねだりするのがいけない」(笑)
「してねーっっ!!」
「してるってば♪」
「あぁもう、タンクトップ着てても目立つ〜〜〜っ」(泣)
「そんなに気になるならニップレスでも貼る?」
「うぅぅ・・・うっかり脱いだら却ってハズカシイ・・・・・」
「ならニップルリングは?」
「うぅぅぅぅ・・・・・・・・って!違う!アル!お前それっっ違う違うっ!」
「え〜〜、折角買ったのに♪」
「んなっっ!?」
※ニップルリング ・・・ えすえむで使うアレ(笑)
ここを訪れるのはあの時以来だ。
あの時もこんな風が吹いていて、副官と二人で荷馬車に揺られて。
穏やかな風が丘を渡るのどかな村。
けれどあの時私が出会ったのは、片手片足を失い弟の肉体を失い絶望した小さな少年と、彼を気遣い守ろうとする、唯一取戻したその魂を巨きなつめたい鎧に宿した彼の優しい弟。
その彼らは今、その肉体のすべてを取戻して・・・・・・この広い草原、私の足元に転がってすやすやと眠っている。
「・・・・・・・・・なんなんだ、こいつらのこの寝相は?」
額を摺り寄せ両の手をゆるく繋いで身体を丸めるように横たわって・・・膝頭も触れ合わせて・・・・・・・。
「子猫が2匹・・・いや、彼らの性格を考えると弟のほうは仔犬か」
東部のはずれのこの小さな村まで赴いた理由の、当の彼らがこの有様なので、仕方なく、私も傍らに腰を降ろした。
穏やかな風が心地よく頬を撫で過ぎてゆく。
「確かに、ここは昼寝にはもってこいだな」
こんな暖かな陽気でこんな風が吹いていては、睡魔に襲われても仕方があるまい。
どうせならと休暇を取って来てよかった。
これならここで私が居眠りをしてしまったとしても副官にしかられることはないだろう。
今、一番兄さんの近くに居るのは、ボクだ。
「兄さん。ボクのものになりな」
金色の目をまん丸にしてぽっかりと口をあけて、兄さんがボクを凝視する。
意味が解らないのも無理はない・・・・・・でも、ね。
ボクの体を取り戻す算段をするのにもうまったく何の躊躇いもなく、自分の手足を代価にしようとするなんて。
決意でも覚悟でもなんでもなく、まるで買い物をするのにお金を払うみたいにあたりまえなことみたいに。
自分を簡単に差し出そうとするなんて。
今、一番兄さんの近くに居るのは肉親であるボクだ。
でももし、兄さんに恋人ができて家庭をもって・・・・・・。その人たちのために兄さんがその身体を差し出したりしたら。
ボクはその人を憎むだろう。
ボクは彼らを呪うだろう。
もしかしたら、殺してしまうかもしれない。
だから・・・・・・・。
「いいから。ボクのものになるって言いなよ、兄さん」
そうしたらボクは、ボクと兄さんと周りの人たちみんなをもうとにかく必死で守るから。強くなるから。
朝陽の射すバスルーム。
そこに設えられた洗面台に、それを見つけて俺は少しびっくりした。
「アル、お前・・・・・・ヒゲなんて生えんの!?」
俺が見つけたそれは、シェービング用の泡をあわ立てるのに使う器と筆刷毛。
今朝はまだ使っていないのか、それはふわりと乾いて。
「うーん、ちょっとだけ」
「アルばっかずるい・・・・・・」
笑うアルが鏡に映る背中から抱きしめられる。
「いいじゃない。兄さんはすべすべな方が僕が嬉しいし」
言いながら俺の顔に頬を摺り寄せる。
微かな痛み。ヒゲのこすれる感触。
「イテェよ、アル」
「ごめんごめん」
頬に優しいキス。
長い腕が洗面台に伸びる。筆刷毛を手に取り、俺の頬をそっと撫でる。
「ほら、痛くない」
っつーか、くすぐってぇって。
鏡越しにアルをにらみ付ける。
返るのは優しくてえっちな眼差し。
視線だけで火のついた身体を柔らかな刷毛が撫でて行く熱い唇がその軌跡を辿る。
「ん・・・・・・っあ」
ぞわぞわとした快感に反り返った腰を撫で、長い指がソコを暴く。
狂おしい熱を何度も受け入れたソコを筆刷毛でくすぐられて・・・・・・。
思いがけない快感に、ねだるみたいに尻を突き出して・・・・・・。
「あ、アル・・・・・・ぅ」
その熱で貫いて溶けるくらい揺すって。
ね・・・・・・はやく・・・・・・・・・。
冷たくて硬いものがそこに触れる。
昨夜の名残でまだ柔らかいそこに埋め込まれる。
「え・・・・・・っっ!?」
「尻尾♪」
「・・・・・・なっっ?あ、アルっ!?」
「ウサギみたいで可愛い♪」
両の手首をぐっと握られ抱き込まれて身動きできない。
こ、コイツこんなに力強かったか!?
「と、取れって!!」
「可愛いー♪兄さん凄く可愛いー♪」
「取れってばーーーーっ!!」
「あははははは♪」
爽やかな朝の光の差し込むバスルーム。
朗らかなアルの笑い声と俺の絶叫が響き渡る。
『なんだこれっ!!』
バスルームから響く絶叫つづいて大爆笑。
やっと気づいたか弟よ。
いやなに、お前があんまり気持ちよさそうに寝ているからさ。
ちょっと悪戯しただけだ。
夜中にふっと目が覚めて。
俺はもう一戦交えたかったんだ。
なのにお前は揺すっても鼻をつまんでも起きやしなかったんだ。
だからちょっと・・・・・・油性マジックで臍の下、金色の生え際のすぐ上あたりに『オレ専用』と、書いただけ。
ま、笑ってくれて何よりだ。
とりあえず俺は、アルフォンスをひやかす為にバスルームへと足を向けた。
笑転げる声が響き渡る、朝陽の射すその場所へ。
へたり込んだ俺の目の前に立って‘彼’は、手にしていたナイフでその金の房を切り捨てた。
離れていた月日を彼と共に過ごしてきたであろう長く伸ばした金の髪を躊躇いもなく惜しげもなく。
「っ・・・アル・・・・・・・・・?」
‘彼’は、アルフォンスはなんでもないことのように笑う。
「僕にはもう、必要のないものだから。兄さん、あなたが僕のもとに帰ってきたんだから」
広い空に溶け込むように笑うこの丘を渡る風のように笑う。
青い空のように、深い海のように。
アルフォンスの掌からサラサラと、金の髪を風がさらう。
1本残らず風にくれてやって、その手を俺に差し伸べる。
「お帰り、兄さん」
青い空のように、深い海のように。俺を包むように。
会いたくて、焦がれて。夢にまで見たその人が、愛しい弟が俺に手を差し伸べて笑う。
言葉で交わしたわけではない約束。
でも、何時だって俺たちは互いを求め続けて・・・・・・。
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