「ところで、だ・・・・・・アルフォンス」
「なぁに、兄さん?」
『なぁに、兄さん?』
俺の背中と目の前から同時に声がする。高い位置と低い位置、高い位置からの声は懐かしくさえある金属的な残響つきで。
「目の前のお前がアルなら、今俺を後ろから羽交い絞めにしている鎧は一体何なんだ・・・・・・?」
『酷いな兄さん、僕は僕でしょ?忘れちゃったの?一緒に苦楽をともにしてきた仲だっていうのに』
拗ねたような子供の声。
取戻す旅をしていた頃の鎧姿のお前の声・・・・・・でも。
「記憶がない・・・・・・って言ってなかったかお前?」
「記憶がないからこそ必死で調べたんじゃない」
『記憶がないからこそ必死で調べたんじゃない』
同時に響く二つの声。
「だぁぁぁぁぁぁっ!バランスのおかしなステレオで喋るなぁぁあっ!!」
叫ぶ俺に、目の前の子供のアルは嬉しそうに笑う。
「変わってない。変わってないね。子供の頃の・・・・・・僕の記憶の中の兄さんそのまんまだ・・・・・・」
割り開かれた俺の膝の間で。アルフォンスの目元が柔らかく緩む、眦が薄く湿り気を帯びる。
「会いたかった・・・・・・きっとどこかで兄さんは生きてるって・・・・・・・・・信じてた。ずっと、信じてた」
嬉しそうにとてもとても嬉しそうにアルが笑う。
「会いたかったよ。ずっとずっと、会いたかったよ」
俺の胸に顔を埋めるようにしがみつくように温かな身体が抱きついて。
『会いたかった。やっと・・・やっと兄さんに会えた』
俺を包むようにいとおしむように小さなアルごと懐かしいひんやりとした鋼鉄の腕が抱きしめて。
幸せに浸る俺の顔に小さなアルがキスを降らせる。
嬉しくてくすぐったくて緩んだ唇に唇が重なる柔らかな舌が忍び込む。
「んーーーっっっ!?」
大きな皮の掌が俺を撫でる確かめるように愛撫するように。
「んっ?んんっっ!?」
慌ててアルの頭を引き剥がす。
「ぷはっっ!」
「もっと味わわせてよーっっ!!」
頬を膨らませて子供らしくむくれるアルの頬を両手で包んで目をあわす。
「だから一体どうなってんだよ。なんで両方アルなんだよ!!」
ちゃんと説明するまでおあずけだと言うと、しぶしぶといった態でアルフォンスが話し始めた。
「だからさ、僕の魂の一部を鎧に移して遠隔操作してるんだよ。僕の記憶にはないけど、長いこと鎧やってたせいか割と簡単に剥がれるんだよねー魂」
簡単に剥がれるってお前そんなっっ!!!
「ばっっっ馬鹿っっ!!早く戻せ早くもどれっ!!元に戻れなくなっちゃったらどうすんだお前っ!!!」
金色の目が大きく見開いてゆっくりと眇められて満面に笑みを浮かべて。
「兄さん・・・・・・心配してくれてるの?」
「当たり前だろ馬鹿っ!!」
幸せそうに幸せそうに笑って俺に抱きついて。
「嬉しい。好き・・・・・大好きだよ兄さん」
ほんとにほんとに大好きだよと、甘い声で繰り返しながら・・・・・・4本の手があわただしく俺の服を脱がしにかかる。
「わっっ!?わわっっっ!!!!????」
驚いて咄嗟に突き飛ばすアルのからだが思い切り吹っ飛んで壁にぶち当たる派手な音を立てて。
同時に鎧のアルの動きも止まる。
「あっ、アル!!大丈夫かアルフォンスっっ!!」
慌てて抱き起こすぶつけた頭を用心深く覗き込む。
「あいたたたた・・・・・・酷いじゃないか兄さん」
「だ、大丈夫だったか?」
「あ・・・・・・」
「な、何だ!?」
ガシャン
「今ので思い出した・・・・・・僕のなくした4年間の記憶」
「えっっ!?ホントにっ!?」
いつの間にかまた背後から冷たい腕が回って捕らえられて。
「全部」
「・・・・・・え?」
「遠慮なくいかせて貰うから」
「ななななにをっ!?」
13歳の子供がにやりと悪い顔で笑う。
「鎧の僕のぶっとい指を下のお口にくわえ込んでアンアン言って善がってたくせに」
「下の口とか言うなぁっ!」
『四つんばいで僕の目の前にお尻突き出して‘気持ちいいのいっぱいしてぇ’って可愛くおねだりしてくれたじゃない』
目の前から背中から、思い出しただけでも顔から火を噴きそうな恥ずかしい過去を並べられていたたまれない。
「わぁぁぁぁ!言うなぁぁっあっ・・・・・・あぁんっ」
張り上げた絶叫も息絶え絶えな、先の思いやられる甘い再会。
なんだか開いてしまった年齢差に誤魔化されていたけれども喧嘩でも組み手でも、口げんかですらもこの弟にはまるで叶わなかったのだと、ぐだぐだになりそうな意識の下で思い出したけれども、もう、遅い。
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